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BUSINESS

医療DXとは?メリットや進め方、導入事例を紹介

医療 dxとは

医療DXは、医療機関の業務効率化やサービス品質の向上に不可欠な取り組みとして注目を集めています。本記事では、医療DXの定義から具体的な導入事例まで、医療機関が知っておくべき情報を体系的に解説します。

厚生労働省が提言する『医療DX令和ビジョン2030』の内容や、昭和大学病院などの先進的な導入事例を紹介することで、自院での実践に向けたヒントが得られます。また、電子カルテの標準化やオンライン診療の実現など、DXによってもたらされる医療の未来像も分かります。さらに、DX推進における人材確保や予算の課題、その解決方法まで詳しく解説しているため、医療機関のDX担当者や経営者の方々に役立つ実践的な知識を得ることができます。

1. 医療業界のDXとは何か?

医療業界においてDX(デジタルトランスフォーメーション)は、一般企業とは異なる特徴を持っています。医療現場の特性を踏まえたDXの定義と現状を理解することが重要です。

1.1 医療におけるDXの定義とは

医療業界におけるDXとは、デジタル技術を活用して医療の質を向上させながら、効率的な医療サービスの提供を実現する取り組みです。

一般企業のDXが競争優位性の確立を目指すのに対し、医療DXの目的は以下の3つです。

目的 具体的な内容
医療の質向上 診断精度の向上、医療ミスの削減、患者への適切な医療提供
医療アクセスの向上 遠隔医療の実現、地域医療格差の解消
医療従事者の負担軽減 業務効率化、労働環境の改善

1.2 DXとデジタル化は何が違う?

医療分野におけるデジタル化とは、紙カルテの電子化や予約システムのオンライン化など、既存の業務をデジタルに置き換えることを指します。一方のDXは、デジタル技術を活用して医療提供体制自体を変革することを意味します

例えば、以下のような違いがあります。

項目 デジタル化 DX
診療記録 紙カルテの電子化 AI診断支援による診療プロセスの変革
予約管理 電話予約のWeb化 AIによる最適な診療スケジュール自動作成
医療情報 データのデジタル保存 医療ビッグデータの分析による予防医療の実現

1.3 DXに取り組む関係機関は他産業より少ない

厚生労働省によると、、医療・福祉分野でDXに取り組んでいる機関数はまだ十分ではありません。

業種 DX取り組み率
情報通信業 51.0%
製造業 28.5%
金融・保険業 25.3%
医療・福祉業 9.3%

1.4 医療業界が抱えている課題

医療DXを妨げる主な課題として、人材不足、システム導入コスト、セキュリティ対策、規制対応などが挙げられます

具体的な課題は以下の通りです。

課題分野 具体的な内容
人材面 IT人材の不足、デジタルリテラシーの格差
技術面 レガシーシステムの存在、相互運用性の欠如
運用面 業務プロセスの標準化不足、変革への抵抗
制度面 個人情報保護規制、診療報酬制度の制約

厚生労働省の報告によれば、医療・福祉業における離職者数は781.5 千人と、全産業中で最も多い状況です。この人材不足は、DX推進の大きな障壁となっています。

2. 『医療DX令和ビジョン2030』で提言されている3つの取り組み

厚生労働省は2023年6月に『医療DX令和ビジョン2030』を発表し、2030年までに実現を目指す医療DXのロードマップを示しました。このビジョンでは、医療現場のデジタル化を推進し、患者と医療従事者の双方にとって効率的で質の高い医療提供体制の構築を目指しています。

2.1 全国医療情報プラットフォーム創設

全国医療情報プラットフォームは、医療機関間での情報共有を実現する基盤です。患者の診療情報や健康データを安全に共有できる環境を整備することで、より適切な医療サービスの提供を可能にします。具体的には以下の機能が含まれます。

主な機能 期待される効果
電子カルテ情報の共有 ・複数医療機関での診療情報の即時確認
・重複検査の回避
・より正確な診断
マイナンバーカード連携 ・本人確認の簡素化
・保険資格確認の効率化
・医療費の正確な把握
健康データの統合管理 ・予防医療の推進
・個別化医療の実現
・医療の質の向上

2.2 電子カルテ情報の標準化

電子カルテ情報の標準化により、医療機関間でのスムーズな情報連携が可能となり、より質の高い医療サービスの提供が実現します。標準化の主な対象は以下の通りです。

標準化対象 内容
標準文書(3種) ・健康診断結果報告書
・退院時サマリー
・診療情報提供書
標準コード(6項目) ・感染症
・傷病名
・アレルギー
・処方
・検査
・薬剤禁忌

2.3 診療報酬改定DX

診療報酬改定DXでは、診療報酬改定に伴うシステム更新作業の効率化を図り、医療機関の業務負担を軽減することを目指しています。具体的な取り組みとしては以下が挙げられます。

  • 診療報酬改定情報のデジタル化
  • システム更新作業の自動化
  • 改定内容の即時反映システムの構築
  • レセプト請求システムの効率化

これらの取り組みにより、医療保険制度の運用効率化と、医療機関の事務作業負担の大幅な軽減が期待されています。

3. DXの先にある医療業界の未来

医療業界のDXは、単なるデジタル化ではなく、医療サービスの質を向上させ、効率的な医療提供体制を実現する重要な取り組みです。ここでは、DXによってもたらされる医療業界の具体的な未来像を解説します。

3.1 業務効率化を図れる

AIやRPAの導入により、医療現場の業務効率が大幅に向上します。例えば以下のような効果が期待できます。

業務分野 DXによる効率化効果
事務作業 受付業務の自動化、保険請求事務の効率化
医療記録 電子カルテによる情報管理の効率化
在庫管理 医薬品・医療材料の適正在庫維持

3.2 オンラインによる遠隔診療の実現

オンライン診療の普及により、通院困難な患者への医療サービス提供が可能になります厚生労働省の統計によると、オンライン診療実施医療機関は年々増加傾向にあります。

3.3 BCP対策にもつながる

災害時や感染症流行時にも、医療サービスを継続して提供できる体制が整います。具体的には以下が挙げられます。

  • クラウド上での患者データ保管による情報喪失防止
  • 遠隔診療による非常時の医療提供継続
  • デジタル化による業務継続性の確保

3.4 医療業界全体での情報共有

医療機関間でのシームレスな情報共有により、より質の高い医療サービスの提供が可能になります医療DX令和ビジョン2030では、全国規模での医療情報プラットフォーム構築を目指しています。

3.5 予防医療が進む

AIによる健康データ分析と予測により、疾病の早期発見・予防が可能になります。具体的な変化として以下があります。

予防医療の分野 DXによる変革
健康管理 ウェアラブルデバイスによる常時モニタリング
疾病予測 AIによる健康リスク分析
生活習慣改善 パーソナライズされた健康アドバイス提供

4. 医療業界がDXを進める5つのステップ

医療機関でDXを成功に導くためには、段階的なアプローチが重要です。以下の5つのステップに沿って進めることで、効果的なDX推進が可能となります。

4.1 現状の課題を明確化させる

DXを推進する第一歩として、医療機関が抱える課題を明確にする必要があります。以下のような視点で現状分析を行いましょう。

分析項目 具体例
業務プロセス ・紙カルテの管理に時間がかかる
・予約管理が非効率
・医療機器の稼働状況が把握できていない
人的リソース ・人手不足による長時間労働
・専門知識を持つ人材の不足
・部門間の連携不足
システム環境 ・旧式のシステムによる処理の遅延
・他院とのデータ連携ができない
・セキュリティ対策が不十分

4.2 課題解決の優先順序を決める

優先順位の決定には、以下の3つの観点から評価することが重要です。

  • 患者満足度への影響度
  • 業務効率化による効果
  • 投資対効果(ROI)

4.3 DX人材の確保とツールの選定

医療DXを推進するために必要な人材とツールを選定します。厚生労働省の医療DXに関するガイドに基づき、以下の点に注意して進めましょう。

  • 内部人材の育成計画の策定
  • 外部専門家の活用検討
  • 導入するシステムやツールの選定基準の明確化

4.4 業務プロセスの見直し

DXの導入に合わせて、既存の業務プロセスも見直す必要があります。以下のステップで進めましょう。

  1. 現行の業務フローの可視化
  2. 非効率な作業の特定
  3. 新しい業務フローの設計
  4. 段階的な移行計画の策定

4.5 SaaSで多機関と連携できる環境をつくる

医療情報の共有と連携を実現するため、デジタル庁の医療DX推進計画に基づき、以下の環境整備を行います。

  • 電子カルテの標準化対応
  • セキュリティ基準に適合したクラウドサービスの選定
  • 地域医療連携ネットワークへの参加
  • オンライン診療システムの導入

これらのステップを着実に実行することで、医療機関のDXを効果的に推進することができます。特に重要なのは、現場スタッフの理解と協力を得ながら、段階的に進めていくことです。

5. 医療業界のDXの事例

医療業界では、DXによって業務効率化や医療の質の向上を実現している事例が増えています。具体的な事例を紹介します。

5.1 昭和大学病院:eICU(遠隔医療)

昭和大学病院は、高度な遠隔集中治療管理システム「eICU」を導入しています。

遠隔集中支援システム(tele-ICU)は、集中治療専門医が不足する中、ネットワークを通じて専門医が遠隔地からICUを支援する仕組みです。昭和医科大学はアジアで初めてこのシステムを導入し、「Showa eConnect」として2018年から運用を開始。これまでに約2万8千人の患者を支援しており、2025年3月からは小田原市立病院のICUも新たに支援対象となります。

5.2 慶応義塾大学病院 産科:オンライン妊婦健診

慶応義塾大学病院産科では、新型コロナウイルス感染症対策として、妊婦健診のオンライン化を実現しました。

妊婦の通院による感染リスクを減らすため、血液検査や超音波検査が不要な時期は原則として遠隔診療に移行。事前に問診票や必要情報を記入の上、予約時間に病院からの連絡を待ちます。診療はビデオ通話で行い、開始までは音声電話を使用します。

このように、医療機関それぞれの特性や課題に応じて、様々な形でDXが推進されています。これらの事例は、医療の質の向上と効率化の両立を実現している好例といえます

6. 医療業界がDXを進める上で把握しておきたい課題

医療業界でDXを推進する際には、大きく3つの課題があります。これらの課題を事前に把握し、適切な対策を講じることで、DXの成功確率を高めることができます。

6.1 DX人材の確保が難しい

医療機関におけるDX人材不足は深刻な問題となっています。厚生労働省の日本医師会総合政策研究機構によると、システム開発やデジタル技術に精通した人材の不足を課題として挙げる医療機関が9割と回答しています。

課題の詳細 影響
内部人材の不足 DX推進の遅延、計画立案の困難さ
外部ベンダーへの依存 コスト増加、医療現場のニーズとのミスマッチ
人材育成の遅れ 持続的なDX推進の障害

6.2 競争が起きづらい仕組み

医療業界特有の診療報酬制度により、一般企業のような競争原理が働きにくい環境があります。厚生労働省が定める診療報酬点数制度では、医療機関による価格競争の余地が限られており、DXによる効率化のインセンティブが生まれにくい状況です。

具体的な課題として以下が挙げられます。

  • 診療報酬の固定化による革新的サービス導入の困難さ
  • 医療機関間の横並び意識による変革への消極性
  • 公的医療保険制度による経営効率化の制限

6.3 DX投資に充てられる予算が足りない

日本医師会の報告によると、一般病院の経常利益率は年々低下傾向にあり、特にコロナ禍以降は多くの医療機関が経営的な課題を抱えています。

予算制約の要因 具体的な影響
経営状況の悪化 設備投資の抑制、DX関連予算の削減
診療報酬改定の影響 収益予測の困難さ、投資判断の遅れ
導入コストの高さ システム更新の先送り、部分的な導入に留まる

これらの課題を克服するためには、段階的なDX推進計画の策定、補助金等の活用、医療機関間での連携による共同投資など、現実的な対応策を検討する必要があります。

7. 医療のDXに最適なツール『UMWELT』をご紹介

医療業界のDXを進める上で発生する課題を回避するなら、TRYETINGの『UMWELT』がおすすめです。UMWELTは、あらかじめ備わっているアルゴリズムを組み合わせるだけで、データから在庫計算や需要予測ができます。

これまで過剰在庫による廃棄をしていた場合でも、UMWELTがあれば在庫の適正管理が実現可能です。

8. まとめ

医療DXは、厚生労働省が『医療DX令和ビジョン2030』で示した通り、医療情報のプラットフォーム創設や電子カルテの標準化など、デジタル技術を活用した医療業界全体の変革を目指すものです。昭和大学病院のeICUや慶応義塾大学病院のオンライン妊婦健診など、先進的な取り組みが進められていますが、DX人材の不足や予算確保の課題も存在します。

しかし、業務効率化や遠隔診療の実現、医療機関同士の情報共有の促進など、DXがもたらすメリットは大きく、今後の医療の質向上に不可欠です。医療DXを成功させるためには、現状の課題を明確化し、優先順位をつけた上で、適切なツールを選定し、段階的に進めていくことが重要です。また、SaaSの活用により多機関との連携を図ることで、より効果的なDXの推進が可能となります。

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