CULTURE

日本酒からみる文化と歴史――現代の海外ブームやサブスクサービスまで考える

日本酒からみる文化と歴史――現代の海外ブームやサブスクサービスまで考える

年の瀬も迫り、忘年会シーズンが始まった(執筆時12月26日)。著者も忘年会を行ったが、コロナ禍による暗い状況を吹き飛ばすように、居酒屋は満席で大盛況だった。今年の漢字は「戦」と決まり、それぞれ大変な時代だったと思う。年末年始ぐらいは、お酒を飲みながら今年の疲れを癒し・来年の英気を大いに養ってほしい。

さて、お酒。日本発祥のお酒と言えば「日本酒」だ。ふと、日本酒はいつ頃始まり、どのような文化と関わり合っていたのか疑問に思って調べてみた。さて、始まりはいつなのか――。

2000年以上の歴史を持つ日本酒の原点

始まりは、弥生時代まで遡る。BC300~200年頃には、水稲の渡来に応じて、米麹を利用した日本酒造りが始まったとされている。その後、西暦200年頃に発行された「魏志(ぎし)」東夷伝に「倭国の酒」の記述があるので、2000年以上前から、現在の日本酒と全く同じではないが米から作った酒を飲んでいたということになる。

そして、715年に編纂されたとされる「播磨国風土記」に「清酒(すみさけ)」の記載があり、この頃に麹菌を使った日本酒造りが始まったとされている。

同じ時期に面白い逸話がある。712年にまとめられた「古事記」の中には、ヤマタノオロチを退治するために、八塩折りの酒を造って飲ませたという逸話が描かれている。酒で大蛇が倒せたというのは驚きの一言だ。

そして、奈良時代後半から平安時代にかけて宮中での酒造りが確立。927年に定められた「延喜式」の中には、現在の製法とほぼ変わらない製法でさまざまな日本酒が作られたという記述がある。

「延喜式」のなかには、宮廷で行事用の酒を造る「造酒司(みきのつかさ)」という役職について記述がある。宮中で造られる酒には、白酒、黒酒を始めとして13種類あったという。「造酒司」の技術はやがて流出し、民間へと広がっていった。市中の造り酒屋や権力をもつ寺院でも酒造りが行われるようになる。

室町時代になると、京都市内には小規模な酒屋が数百件生まれ、市中で酒造りが盛んになる。そのなかでも近畿地方の大寺院で造られた酒は、僧坊酒と呼ばれ高く評価された。つまり、元々宮廷内の特権階級しか飲めなかった日本酒を庶民でも嗜むことが可能になったということだ。

そして、品質の高い日本酒造りに関する技術開発は続けられ、江戸時代中期(約18世紀ごろ)には、ついに現代とほぼ同じスタイルでの日本酒製造方法が確立した。ただ幕府は、米の需要を安定させるため、米を原料とした酒造りに統制をかけ、飲酒抑制などの政策も行ったことで酒造りは冬季に集中。冬の農閑期・魚閑期に酒屋へ出稼ぎする杜氏・蔵人が発生し、寒造りが主流となって現代に引き継がれたという。

また、日本酒は神事と関わりが深いことでも知られる。例えば、お神酒は、神社や神棚で備える神饌の一つだ。その機会は現代でも脈々と受け継がれ、お正月、厄除け、結婚式、初宮参り、七五三、地鎮祭など御神酒を飲む行事は多い。

輸出総額が12年連続で増加。海外では日本酒ブーム

そうした日本人と非常に馴染みが深い日本酒だが、現在は日本だけでなく海外でもよく飲まれている。日本酒は海外では「SAKE」と呼ばれ、ブームが続いている。財務省の貿易統計によると、2021年度(1月~12月)は、日本酒の輸出総額が401.78億円に達し、12年連続で前年を上回る結果となった。数量も3万2,053キロリットルと過去最高だったと発表した。

国別の輸出金額の第1位は中国で、昨対比177.5%の約102億円。数量第1位はアメリカで8,826キロリットルだった。ほかにもフランス、イギリスなどのヨーロッパへの輸出量も増加している結果となった。

また、海外では現地で酒蔵を作った事例も出てきている。輸出量第1位のアメリカでは、ニューヨーク州で初めてクラフト酒メーカーとして創業した「ブルックリン・クラ」がある。ブルックリン地区のインダストリーシティに、その場で飲めるタップルームを併設した製造所を有し、清酒の製造事業を展開している。

「ブルックリン・クラ」は、2021年に八海山を製造する八海醸造が資本業務提携の契約を発表。八海醸造が培ってきた酒造り技術の伝承や、共同開発、グローバル展開を協力しながら行っていくという。

また、日本酒ベンチャーのWAKAZEは、山形県に本社をもつが、海外市場に可能性を感じ、フランス・パリに酒蔵を立ち上げている。その場で日本酒を楽しめるテイスティングスペースも併設。米は南仏カマルグ地方で栽培されるジャポニカ米、水はミネラル豊富な硬水を使用し、可能な限り現地で調達した原料で酒造りを行っている。

海外の日本酒ブームは、日本食ブームと相まって今後もしばらくは続きそうだ。

若者に飲まれなくなった日本酒

翻って、日本はどうか。農林水産省の資料によると、日本酒の年間国内出荷量は昭和48年のピーク時に170万キロリットルを超えていたが、ほかのアルコール飲料との競合により減少傾向で推移している。令和3年は、40万4000キロリットルで、全盛期と比べると4分の1以下に。

今後の少子高齢化社会を鑑みても、国内の日本酒出荷量はさらに減少するだろう。また、盾の川酒造が行った国内の日本酒の飲用実態調査によると、国内の20~30代の約7割が「1年以上日本酒に触れていない」という結果となった。これは30代で日本酒大好きな著者からすると、信じられない結果だ。

その理由として、「料理との相性を判断するのが難しい」という回答が4割にのぼった。著者からすると、「だいたい合うよ」と言いたいところだが。

ただ、その一方で完全に日本酒を若者が敬遠しているかというと、そうでもないようで、ベンチャー企業を中心に日本酒サブスクサービスは人気があるようだ。

新潟のFERMENT8が運営する日本酒定期便サービス「SAKE POST」は、毎月3酒蔵の日本酒がポストに届く。瓶ではなくオリジナルパウチで届けられ、商品裏面のQRコードを読み取ればWebサイトで銘柄や基本情報などが分かる遊び心もある。100ミリリットルのコンパクトサイズであること、銘柄が分からないドキドキ感なども受けているようだ。これは海外向けにも事業を行っている。

同じパウチタイプで提供する「GO-POCKET」はアウトドア向けで、「キャンプで1杯だけ飲みたい」というニーズを汲んでいるという。ほかにも、「saketaku」、「KURAND CLUB」など日本酒の定期便サービスは多い。

こうしたサービスにニーズがある背景には、日本酒の敷居の高さがあるのではと考える。現在、日本酒の酒蔵は全国で1,400以上あり、銘柄は1万種類以上ある。「失敗したくない」、「そもそも何を選んでいいか分からない」と考え日本酒に手が出せないという人も多いのではないか。

そのため、日本酒にまつわるイメージの脱却を目指す日本酒メーカーも出てきている。秋田にある新政酒造が提供するカラーズとNo.6シリーズのラベルは高級ワインのようなイメージだ。もちろん、伝統的な製法技術や味は大事にしながらも、手の届きやすいオシャレなボトルデザインにすることは若い女性などにも関心をもってもらえるかもしれない。ほかにも、大嶺酒造や、時間をコンセプトに商品やボトルデザインを変えている「HINEMOS」など、これが日本酒!?と驚くデザインをもつものも多いので調べてみると面白いだろう。

歴史を見ると、日本人の傍らに常にあった日本酒。神事などにも関わりが深く、日本人のアイデンティティの中に深く刻み込まれていると著者は思っている。そのため、海外ブームが盛り上がるのもいいが、国内での飲酒量が減少していくのは少し寂しく感じてしまう。

日本酒文化維持のためにも、忘年会・新年会の場で飲んだことがない人は少し挑戦してみてはいかがだろうか。

参考文献

「古事記」
「魏志東夷伝」
「播磨国風土記」
「延喜式」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000030.000071925.html
https://www.japansake.or.jp/sake/know/what/01.html
https://japansake.or.jp/sake/about-sake/history-of-sake/
https://www.kikumasamune.co.jp/toshokan/06/06_06.html
https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/news/news_005.html
https://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/industry/history/history05.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000084554.html
https://www.brooklynkura.com/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000017151.html
https://www.maff.go.jp/j/seisaku_tokatu/kikaku/attach/pdf/sake_r4chousa-3.pdf
https://ferment8.jp/
https://japan-sakepost.com/
https://kurand.jp/pages/kurand-club
http://aramasa.jp/collection/index.html
https://hinemos.tokyo/?gclid=CjwKCAiAhqCdBhB0EiwAH8M_GkaJEQkMqc_cHw3L6rb3vxscg4C4eA49CDoHI6u-TPsSYLm8S_TGxRoCtQgQAvD_BwE
https://www.ohmine.jp/concept/
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/yushutsu/pdf/0021010-203.pdf
https://go-pocket.jp/
https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=01&P=1,1,,,,,,,,4,1,2021,0,0,0,2,220600200,,,,,,,,,,1,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,100

WRITING BY

太田 祐一

ライター・記者

住宅関係、金属関係の業界紙を2社経験後、フリーランスのライター・記者として独立。現在は、さまざまな媒体で取材・記事執筆を行っている。注力している分野は、モビリティ、環境問題、働き方、スタートアップなど。

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