CULTURE

リサイクルが自然に溶け込む、環境先進国・デンマークが実践する循環型の暮らし

リサイクルが自然に溶け込む、環境先進国・デンマークが実践する循環型の暮らし

あなたが新しい土地へ何も持たずに引っ越すとして、家具や家電、その他もろもろの品をどうやって調達するだろうか。ほとんどの人が家電量販店や家具店に出向き、新品を買うと答えるだろう。もしくはインターネットで注文する人も多いかもしれない。

私が今暮らしている北欧・デンマークでは、「セカンドハンドショップ(中古品店)へ行ってみようか」というフレーズをよく聞く。日本人ほど中古品に対して否定的な意見はなく、家電や家具に限らず洋服から小物まで、暮らしにセカンドハンドショップが溶け込んでいる。年代も10代から90歳を超える人までさまざまだ。

デンマークは、世界180か国の環境パフォーマンスを評価するThe 2022 Environmental Performance Index (EPI)(※1) で堂々の1位。さらに、SDGsすべての達成に向けた総合的な進捗を測定する「Sustainable Development Report 2022」(※2)では163か国中2位にランクインしている。

世界でも有数の環境先進国として知られるデンマークでは、リサイクルが暮らしの中に気取らずにある。今回はデンマーク人の日常に根付くリサイクル文化を覗いてみよう。

“まずはセカンドハンドへ”という文化


デンマークでは、至るところでセカンドハンドショップを見つけることができる。私が暮らす人口3500人ほどの小さな町でさえ、3店舗もある。

運営するのは教会や非営利団体が多く、その中でも私のお気に入りはDanChurchAidが運営する「Folkekirkens Nødhjælp Genbrug」(※3)だ。Genbrugとは、デンマーク語でリサイクルという意味。50年前にデンマーク第二の都市・オーフスで誕生したのを皮切りに、現在はデンマーク国内に114店舗を展開する。

店によって扱う品はさまざまだが、私が暮らす町の店舗は、家具や家電、生活用品が主流で衣類は扱っていない。使いかけの化粧品やロイヤルコペンハーゲンの記念皿があるかと思えば、普通に買えば数十万円はしそうなチェストボード、食べ終わったクッキーの缶、使いかけの色鉛筆などありとあらゆるものが並ぶ。まさに「One man’s trash is another man’s treasure(誰かにとってはごみでも、誰かにとっては宝物)だ。

さらに値段は格安。ほとんどダメージがない総本革のソファでも高くてDKK 500.00(約10,000円)ほどと、日本のリサイクルショップとは比べものにならないほど安い。

店頭に並ぶ商品はすべて寄付でまかなわれているため、破格でも成り立っている。さらにリタイアした高齢者がボランティアとして運営に携わっており、人件費が掛からない。私の住む町の店舗では、年間売り上げは1200万円ほどになるといい、維持費や商品の修理費などを除いたすべての利益は寄付される。

1本につき最大60円戻ってくるデポジットマーク


デンマークのスーパーでは、直径20cmほどの投入口があるマシンを必ず見かける。飲み終わったペットボトルや缶などの容器をマシンに投入すると、容器に記載されたマークが読み取られ、容器のサイズや数に応じて返金金額が記載されたレシートが発行される。レシートをレジに持っていくと現金もしくは、購入品の合計額から値引きされるシステムだ。

非営利団体のDansk Retursystemが運営する、“Deposit marks”と呼ばれる仕組みで、デンマークで販売されている飲料を製造または輸入する会社は自社の商品を登録しなくてはならない。2002年から20年続いており、Dansk Retursystemによると(※4)、これまでに160億本がリサイクルされ、2021年の回収率は93%、21万トン以上の二酸化炭素の削減に成功した。

対象は、缶・ペットボトル・瓶で、返金される金額はマークによって異なる。ガラス瓶と1リットル以下の缶は“Pant A”でDKK 1.00(約20円)、1リットル未満のプラスチックボトルは“Pant B”でDKK 1.50 (約35円)、1〜20リットルの全てのボトル・缶は“Pant C”でDKK 3.00 (約60円) が戻ってくる。

ただし、注意したいのは容器の費用は金額表示には含まれていないこと。実は飲み物を購入する際に、商品代金にプラスしてマークに応じたデポジットを支払わなくてはいけない。つまり2リットルのペットボトルに入ったジュースがDKK10.00(約200円)なら、会計時にDDK13.00を請求される。

容器を返せばお得になるというわけではなく、「損をしないためにボトルを戻す」という仕組みになっている。

引き取り無料のリサイクルセンター


デンマークのリサイクルセンターは日本では見たことがないほど細かく分類されている。

一例を紹介するとプラスチック・ガラス・洗濯機・冷蔵庫・窓ガラス・ベッドマット・木製家具・木製以外の家具、屋外の家具、危険物、洋服、本、段ボール、植物などだ。

さらに私が暮らす市は人口3万7000人ほどだが、5つのリサイクルセンターがある。回収費用は税金としてすでに払っているため無料。費用が掛からなければ不法に投棄される心配はないし、「どうやって処理しよう」と方法や金額に頭を悩ませることもない。

ちなみに、リサイクルセンターにもよるが、ごみの中に欲しいと思う品があれば、格安で購入することもできる。

サーキュラーエコノミーで資源を無駄にしない


世界でも有数の環境先進国であるデンマークでは、生活の中で“自然との関わり”に優先順位を高く置く人が多い。自然が壊されてしまえば、幸せな暮らしも脅かされてしまう。そういった危機意識は、政府の政策にも顕著に現れている。

例えば、2013年に燃やされる廃棄物を減らし、リサイクル率アップを目指す「Danmark uden affald(廃棄物のないデンマーク)」という戦略を立ち上げた。廃棄物を焼却すると二酸化炭素が排出され、地球温暖化の原因となるためだ。現在はより少ない資源でどのように生産し、消費するかに焦点を当てた「Danmark uden affald II」(※5)が進められ、2022年中に家庭ごみの半分をリサイクルすることを目指している。

こうしたシステムはサーキュラーエコノミーと呼ばれ、デンマークのみならず欧州各国で、国家戦略に位置付けられている。

サーキュラーエコノミーは、持続可能な生活を確保するために、地球の資源を有効に活用するという考え方だ。「使って捨てる」の従来型ではなく、廃棄物をどう循環(サーキュラー)させるかに重きを置く。「廃棄物が資源になる」と考えるとわかりやすいかもしれない。

例えば、製品の設計段階から回収と再度加工する仕組みを設ける。材料のリサイクルや修理を始めから想定した経済活動を行うことで、廃棄物を大幅に減らすことができる。

世界は気候変動や廃棄物による土壌汚染、生物多様性の危機など、廃棄物に関わる数々の課題と向き合っている。サーキュラーエコノミーを国家規模で進めることは、汚染を減らし、自然の再生へつなげられると考えられている。

自分のためが、地球のために


世界でもトップクラスの環境意識を持つデンマークでは、紹介してきたような環境問題の解決につながる循環型の暮らしが実践されている。

ただし、彼らは地球のためだけに環境にいいことに取り組んでいるのではない。

例えば、セカンドハンドショップへ行く理由をデンマーク人に尋ねると「安いから」という答えが返ってきた。容器の回収も、自分に現金が戻ってくるというメリットがある。リサイクルセンターには、「ごみを簡単に処理できる」仕組みがある。

自分のためが、地球のためになる。厳しい規制や我慢によって自分が損をした気持ちになるのではなく、それぞれが環境問題の解決に取り組む“メリット”が社会の仕組みに組み込まれることこそ、私たちの暮らしに今必要なのかもしれない。

参考文献

(※1)https://dashboards.sdgindex.org/profiles/denmark
(※2)https://epi.yale.edu/epi-results/2022/component/epi
(※3)https://www.noedhjaelp.dk/genbrug
(※4)https://danskretursystem.dk/
(※5)https://mst.dk/affald-jord/affald/affaldsforebyggelse-strategi-aktiviteter/

WRITING BY

Ayaka Toba

編集者・ライター

新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。

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