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アメリカ社会に衝撃波!米連邦予算・人員削減を強行するDOGEとは?

Hundred dollar bills with the words "What's Next?"

第二次トランプ政権発足から二か月が過ぎ、アメリカ社会がカオスに見舞われている。トランプ大統領の後押しを受けた実業家イーロン・マスク氏率いるDOGEが主要米連邦行政機関の人事に介入し、予算と人員削減を強行しているのだ。米大手メディアABCの報道によると、合わせて30万人程度の連邦職員が人員削減の対象になる可能性があるとされているが、トランプ氏・マスク氏は、DOGEを通じて何を実現しようとしているのか。現地の最新情報を元に状況をアップデートしてみた。

予算・人員削減に大ナタを振るDOGE

世界一の大富豪イーロン・マスク氏率いるDOGEが、主要米連邦行政機関に対する大がかりな予算と人員削減を強行し、アメリカ社会を混乱に陥れている。人員削減は、プロベーション(Probation)と呼ばれる試用期間中の連邦職員を主なターゲットにして行われていて、現時点では、すべての米連邦行政機関で20万人程度の職員が解雇される可能性があると報じられている。

また、プロベーションで雇用されている職員に対するレイオフに加え、7万5千人程度の職員が雇用契約満了までの賃金買い上げ(Buyouts)に応じる見込みであるとも見られていて、最終的な人員削減のヘッドカウントは30万人程度に及ぶと予想されている。

DOGEによる人員削減の嵐は、マスク氏が「犯罪者集団」と呼ぶUSAID(米国際開発庁)や米退役軍人省をはじめ、国防省、教育省、連邦航空局、IRS(内国歳入庁)などにも及んでいる。人員削減が予定通り進められた場合、アメリカの失業率は0.2ポイント程度悪化し、4.3%に上昇するとした試算も出されている。

そもそもDOGEとは何か?

連日主要メディアで報道され、良くも悪くも現在のアメリカでもっともホットなイシューを提供し続けているDOGEとは、そもそもどのような組織なのだろうか。DOGEとはDepartment Of Government Efficiencyの略で、日本語では米政府効率化省と訳されている。「省」を名乗っていることから正式なアメリカの政府機関であると見なされがちだが、DOGEは実は「正式」(official)な政府機関ではない。DOGEは、米国務省や防衛省といった「正式な政府機関」と違ってアメリカ議会の承認を受けておらず、立場的には「米大統領のアドバイザリーボード」であるとしている。

DOGEは大富豪イーロン・マスク氏の発案で発足し、マスク氏が「事実上の組織トップ」として君臨している。DOGEが正式な政府機関ではないように、マスク氏も人事などの決裁権などは持っておらず、あくまでも「トランプ大統領のアドバイザー」という立場をとっている。マスク氏は、連邦職員に対して業務パフォーマンスに関する報告をメールすることなどを求めているが、法的な根拠などは一切無い。マスク氏は、「トランプ大統領のボランティアアドバイザーとしてアドバイスを述べているだけ」であり、その権威的裏付けとして「トランプ大統領の意向」を持ち出しているに過ぎない。

このあたり、幕末に倒幕に動いた薩長の指導者が自らの権威付けに「勅旨」や「錦の御旗」を持ち出したことと酷似している。

DOGEが狙い撃ちにしているモノとは?

Anti DEI Legislation Diversity, equity and inclusion, decision

DOGEの設立目的は、シンプルに「米政府を効率化して国家予算を削減すること」だが、そのために狙い撃ちにしているモノのひとつにDEIがあるとされている。DEIとはDiversity, Equity, Inclusion の略で、日本語では「多様性」「公平性」「包括性」と訳されている。

DEIは、ジョー・バイデン前政権が政策的に広く導入したことでバイデン政権下のアメリカ全体で広がった「トレンド」であり「価値観」だ。DEIのカルチャーは米連邦政府の人材雇用ポリシーから民間企業へと広がり、企業の広告メッセージや製品のデザイン、エンターテインメントにおける表現内容にまでその影響が及んだ。特にアメリカの公的機関における人材採用においては、DEI的側面を重視した「DEI雇用政策」が広く導入されてきたとされる。

マスク氏率いるDOGEは、ダイレクトに「DEI雇用政策」で雇用された連邦職員を主たるターゲットにしている。連邦職員に対して「先週の業務パフォーマンスをメールで報告せよ」などと求めているのは、「仕事をしない、何の成果もあげられない無能な人材は解雇するぞ」というメッセージを暗示している。ビジネスマン出身のマスク氏と、そのボスであり同じくビジネスマン出身のトランプ氏の目には、プロベーションで雇用された職員の多くが「無能な」「何の成果もあげていない」余剰人材として映っている可能性が高いだろう。

身内の共和党からも非難の声が

Young adult female activist feminist demonstration. Gender feminism fight resistance. Women march movement power sign equality. Strike empowerment action. Activist resistance. People city street day.

なお、DOGEによる「行き過ぎた人員削減」については、身内の共和党の一部からも非難の声が上がっている。アラスカ州選出の女性上院議員リサ・マーカウスキー氏は、DOGEによる一連の人員削減をPurge(人材追放)であるとした上で、「我々は皆、政府の効率化を求めています。しかし、ものごとにはやり方があります。現在進行中の連邦職員に対するDOGEの対応は、非常におぞましいものです」と非難している。

DOGEに対する反発は、カンザス州、ミシシッピー州、ネブラスカ州、ワイオミング州といった伝統的なレッドステート(共和党支持州)を中心に広がりつつあり、その勢いは今後さらに拡大しそうだ。アメリカの地方政府も日本の地方政府と同様に、予算などにおいて中央政府に依存しているところが少なくなく、特に連邦職員の削減や、中央政府からの予算削減がそれぞれの台所事情をダイレクトに悪化させる。

DOGEは現在、大がかりな連邦職員の削減を進める一方で、メディケア(高齢者用公的医療保険)やメディケイド(低所得者用公的医療保険)などの医療に関わる予算も大幅に削減しようとしている。医療関連予算削減の話題は、特にディープなレッドステートを中心に広がっており、今後大きな波乱の種になることが確実視されている。

多くのディープなレッドステートにおいては、メディケア・メディケイド関連医療機関などが多数存在し、運営そのものが中央政府に大きく依存している。DOGEによる一連の騒動は、連邦職員の削減という第一幕が佳境を迎えつつあるが、それに続く第二幕で医療関連予算削減が新たな主題になることを今のうちに予想しておく。

アメリカ社会全体に対する強烈な「衝撃波」

いずれにせよ、DOGEによる一連の活動は、現在のアメリカ社会全体に対する強烈な「衝撃波」となっていることは間違いない。それは、バイデン前政権が築いてきたDEI政策に象徴される「すべての人に対して優しいアメリカ社会」との決別であり、「働かざる者食うべからず」というアメリカ保守層の共通認識であり、レッセフェール式適者生存社会と小さな政府の実現を目指すGOP(Grand Old Party, 共和党の一般的なあだ名)のミッションである。トランプ氏が政権を握っている限り、この新たなアメリカの方向性が揺るぐことはないだろう。

トランプ大統領は、トランスジェンダーなどのLGBTQの性的マイノリティを政府として認めず、各スポーツ大会への参加資格も与えないなど保守的側面を強めている。いずれもバイデン前政権からの「揺り戻し」と見るべきだが、政権が交代するたびに各種の大きな「揺り戻し」が起こるのは二大政党制を掲げるアメリカの宿命だ。

アメリカの同盟国である日本は、そうしたアメリカの国政を理解し、上手に付き合ってゆくことが求められる。アメリカの「揺り戻し」にいちいち翻弄されるのではなく、それにアジャストしてベネフィットを獲得すべきだと筆者は考える。そのためには、現在進行中のDOGEの動きを注視し、今後の展開を予想してあらかじめ備えておくことは決して無意味なことではない。

参考文献

https://www.newsweek.com/doge-layoffs-federal-government-workers-tracker-donald-trump-2037921
https://www.axios.com/2025/02/05/trump-musk-doge-job-market
https://www.thedailybeast.com/doge-chaos-sparks-revolt-from-gop-lawmakers-as-purges-hit-close-to-home/

WRITING BY

前田 健二

経営コンサルタント・ライター

事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。

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