BUSINESS
物流が変わる!飛脚やファラオの伝令から、ラストワンマイルの未来へ
目次
ラストワンマイルデリバリー
昨今EC(エレクトロニック・コマース)の急速な増加により、宅配便需要は未だかつてないほど高まっている。過去 10 年間で急速な発展を遂げ、今やボタンひとつで済むネットショッピングやフードデリバリーはより身近で、その選択肢も無限だ。家にいるだけで郵便、クロネコヤマト、Amazonなどと入れ替わり立ち代わり様々な配達員が日々やってくる。
こうした、商品が配送センターから顧客の玄関口まで移動する様を「ラストワンマイル」と表現する。ラストワンマイルは物流の最終段階であり、そして物流の核でもある。
ラストワンマイルデリバリーは、昨今の配送需要の激増と人員不足、交通量など複合的な要因で、最も複雑でコストのかかるサプライチェーン段階であり、企業はテクノロジーの導入を迫られている。日本は更に、「2024年問題」で4月1日からの働き方改革関連法に基づくトラックドライバーの時間外労働上限規制適用により、絶望的な人員不足も抱えている。宅配便配送ネットワークの最適化は急務であり、少ない人員でいかに高効率で配達を完了するか、様々なテクノロジーを用いて試行錯誤が行われている。
ECが経済に大きく影響を与える昨今、ラストワンマイルデリバリー最適化が実現すれば、宅配業界のさらなる発展、ひいては経済成長も促進されるはずだ。ここではこれまでのラストワンマイルの歴史、そして各運送業が社運を賭けて行っている最適化のセオリーを覗いてみよう。
ナイル川を配達人が行く
商品が“配達”された最も古い記録は、古代エジプトに遡る。
エジプトではピラミッドの建材などの石の運搬に限らず、顧客へ商品を届けるサプライチェーン物流網も発達していたという。宅配便業者は、ナイル川やその他輸送ルート近くに戦略的に納屋や倉庫を持ち、商品の保管と配送を計画的に行っていた。
また紀元前2000年頃にはファラオ専用の郵便サービスも行われており、専属の郵便配達員が国家全土に指令を伝えていた。ちなみに鳩を使った手紙の運搬は更に古いシュメール文明の粘土板にも既に記載があり、エジプトでも用いられていたという。
紀元前550年頃からは、ペルシャにも馬を使った郵便配達サービスがあったと伝えられており、エジプトと同様王や有力者だけが利用できた。その配達の迅速さは歴史家ヘロドトスも言及しており、指定された配達は必ず完了されたとされている。商業における物流では、シルクロードを行き交ったラクダによる商隊の活躍も忘れてはいけない。
日本では飛脚が配達サービスの元祖としてよく知られている。宿場や駅を人馬で乗り継ぎ荷物を運んでいた。一人の飛脚が走る距離は約10キロほどと長くはないが、舗装されていない山野や道を走り回り、その肉体の屈強さは白黒写真などでも確認できる。
今日知られている発送と配達につながった宅配便サービスは、19世紀の米国の創意工夫によるものとよく言われている。
最初の公式小包配達会社は今や長寿企業となった「ウェルズ・ファーゴ」で、1852年に営業を開始している。現在では金融業に移行しているが、創業当初は金融に加え宅配便や郵便配達で巨大な物流網を築き、船や列車も用いて世界中に荷物を配送していた。
宅配便の進化におけるもうひとつの伝説的サービスはアメリカの「ポニーエクスプレス」だろう。小包と速達郵便の配達において、南北戦争とカリフォルニアのゴールドラッシュ期に活躍した。彼らの大きな売りはスピードで、速さを追及するために小柄な配達人を採用するなど効率化を最大限に行い、西海岸から東海岸まで10日以内に小包を配達することで知られていた。残念ながら、この会社は資金繰りに失敗し2年も経たないうちに倒産したが、それでも彼らが宅配便の機能に革命をもたらしたことは間違いないだろう。
1907年、2人のティーンエイジャーが徒歩と自転車を使って荷物を配送するアメリカン メッセンジャー カンパニーを設立した。立ち上げに100ドルほどの負債を抱えた小規模なビジネスだったが、配達に車両を導入し規模を拡大、後にユナイテッド パーセル サービス (UPS) に発展した。
埋もれて這い上がれないほどの、荷物
この10年ほどのECの発達により、現在人類史上類を見ない勢いで配達規模が大きくなっている。中国発のショート動画には 実に「山」と呼ぶのがふさわしいほど膨大な数の商品が梱包され、ベルトコンベアにうず高く積まれ運ばれていく様が映され話題になった。その仕分けや荷積み処理量と配達人員の多さは想像に難くない。
またYahoo!知恵袋の質問では、アマゾンフレックスに登録すると、“8時間に110件という荷物の配送ペースが課せられ、未配を起こしてしまったが大丈夫だろうか”などといった例が散見される。8時間に110件をこなすには、アマフレやウーバーイーツなどの元々専業ではない配達員であれば、相当に効率化を意識しなければ難しいレベルであることは一目瞭然だ。配達員の自助努力によるカバーだけでは、昨今のニーズに対応しきれないという、切迫した現実が露見している。
また企業にとっても、ラストワンマイルは物流における総輸送コストの 41% を占めていることから、そこに最適化で改善をもたらすことができれば、人材減少の解決策かつコスト削減も担えるだろう。ラストワンマイル配送ソリューションの導入は、輸送管理システムの可視性を向上させ、業務を合理化し、顧客にとってシームレスな配送プロセスを確保するために不可欠になっている。
顧客が家にいるかいないか、それが重要だ
ヤマト運輸、日本郵政、Amazonなど多くの企業で既に広く導入されているのは「ルートオプティマイゼーション」である。
ラストワンマイル配送を最適化するには、配達ドライバーたちの効率的なルート計画が必要不可欠になる。従来配送ルートは固定されていたが、宛先別配送量のムラなど3M(ムダ・ムラ・ムリ)が発生しやすかった。ヤマト運輸は企業と共同で配送量予測システムと適正配車システムを開発し、脱固定ルートを掲げる。販売・物流・商品・需要トレンドなどのビックデータをAIで分析し、注文数、配送発生率など業務量を予測、そこで得られた情報を配車計画の作成に応用している。日本郵政も配達状況に応じたリアルタイムルート再計算システムを導入している。
Amazonは配達の速さが大きな売りの一つであるとともに、Amazonフレックスという自社の配送システムを創り上げたことでも知られており、社内研究の水準は大学を遥かに上回る部分がある。ラストワンマイルではAmazon独自のルート最適化ナビが道路状況の変化に対する適時の対応に課題があることに着目し、ドライバーの安全性を向上させる技術を開発した。道路や交通標識、高速道路で発生する経路や表示の変化を自動的に検出し、最新の情報を踏まえたルートをドライバーに知らせることで、最適な配送経路に基づいて業務を遂行できる。
このように高度なルート最適化ソフトウェアが実現すれば、交通、天候、配送場所、車両の容量に基づいて、最短ルートを自動的に計算でき、移動時間を最小限に抑え、燃料消費を減らし、最小人数でも配送をまかなえ、運用コストを削減できる。
DHLには「Follow My Parcel」と呼ばれる、顧客に対するリアルタイム配達予定時刻通知システムがある。AIによるルート最適化システムを応用し、配達時間が迫れば「あと 20 分で到着します」といった正確な到着時間を通知、顧客側は都合が悪ければ受け取り予定を変更できる。配達時間を遅らせることや、受取り先に隣人宅を指定することもでき、顧客満足度向上と共に不在配達のリスクを下げ、初回配達率の向上の実現に繋がっているという。
不在配達は大きな問題のひとつであり、佐川急便は企業と大学などとの共同開発により、スマートメーターを利用した在宅予測の実証実験も行っている。スマートメーターから得られる電力データを元にAIが配送ルートを示す。2021年に横須賀市で行った実験では、約20%の不在配送減少が確認できた。
佐川急便は他にも今後の輸送力不足に対応する取り組みの一環として、自律運航AIを搭載したドローンを用いて荷物を配送する実証実験や、米国のユニコーン企業でAIロボティクスソフトウェアの開発等を行うDexterity, Inc.と、AI搭載の荷積みロボットの実証実験を行っている。
スマート宅配 ロッカーも日本ではまだ導入途上だが、中国ではオフィスビルや住宅街に普及し、その数は15万基とも言われている。再配達率を下げるため、企業自ら設置している場合が多いという。西欧でもロッカーは認知され、特に2024年になってその人気は更に高まっているという。
“10分で配達”を超えるのはいつ?
ラストワンマイルデリバリーについて考える時、買い物全てがサイトとアプリケーションという仮想空間で済んでしまうSFのような現代であっても、買ったものを手元に届けるには多大な人力が使われているということに改めて気づかされる。
運ぶ人のより良い働き方にも目が向けられ始めた今、“すぐに届く”という奇跡のような運送の発展を享受してきた我々にも、再びそれが当たり前ではない日々がやってくるのかもしれない。また新しいテクノロジーによって、すでに実現されている脅威のクイックコマース「注文から10分配送」より更に速いサービスが生まれてくるかもしれない。
買う側も売る側も人間の欲望にはきりがないが、そこから発展する技術の進歩にも、常に大きな興味をそそられるのである。
参考文献
黒田勝彦、小林ハッサル柔子著「文明の物流史観」株式会社成山堂書店、2021年
安全・安心で、充実したサポートのある配達
Amazonフレックス
https://flex.amazon.co.jp/safety物流ならびにラストマイル配送におけるAIの活用
Discover delivered by DHL
https://www.dhl.com/discover/ja-jp/logistics-advice/logistics-insights/ai-in-logistics-and-last-mile-deliveryDHL、データクレンジングにジェネレーティブAI導入
Logistics Today
https:// www.logi-today.com/672962Amazon、新配送車両にAI ラストワンマイルを効率化
AmazonのAI物流革命(下)
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC056U20V01C24A1000000/AmazonがAIを活用してホリデーシーズンのお買物体験をより良いものにし、商品をより迅速に配送するためにアメリカで行った5つの方法
Amazon
https://www.aboutamazon.jp/news/delivery-and-logistics/5-ways-amazon-is-using-ai-to-improve-your-holiday-shopping-and-deliver-your-package-fasterFedExとNimbleが強力なAIロボット連携!より迅速正確な配送体制の構築へ
Mobility Nexus
https://mobilitynexus.com/column/1342/#google_vignette働き手不足を解消する業界初「AI搭載荷積みロボット導入」への挑戦
SAGAWA
https://www.sagawa-exp.co.jp/column/article_07.html業界初「AI搭載の荷積みロボット」を実証実験する4社共同プロジェクトを発足
SAGAWA
https://www.sg-hldgs.co.jp/newsrelease/2023/1215_5233.html【佐川急便】世界初「AI活用による不在配送問題の解消」フィールド実証実験にて、不在配送を約20%削減
SAGAWA
https://www2.sagawa-exp.co.jp/newsrelease/detail/2021/0326_1678.html【佐川急便】「自律運航AI」を搭載したドローンを用いて荷物配送を行う実証実験を実施
SAGAWA
https://www2.sagawa-exp.co.jp/newsrelease/detail/2022/0518_1883.htmlアングル:インドでブーム「クイック配達」、競争激化で事故巡る懸念も
Reuters
https://www.reuters.com/article/opinion/-idUSKBN2JY0D4/世界最大のフードデリバリー市場、中国で配達員が崩壊の瀬戸際 「本当に切迫している」
CNN
https://www.cnn.co.jp/business/35225087-3.htmlWhy smart parcel lockers are gaining popularity in Europe
Locate 2u
https:// www.locate2u.com/ecommerce/why-smart-parcel-lockers-are-gaining-popularity-in-europe/10分で届く宅配スーパー「OniGO」 参入1年で見た課題
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC263DP0W2A720C2000000/
伊藤 甘露
ライター
人間、哲学、宗教、文化人類学、芸術、自然科学を探索する者