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【AIが最適化する人間社会】ロボタクシーの普及による、最適化された公共交通の未来とは?
目次
Google持ち株会社Alphabet傘下のWaymoが、2024年11月からロサンゼルスで無人ロボタクシーの本格的な運行を開始した。全米最大の車社会とされるロサンゼルスでのロボタクシーの運行開始は、現地の人々にどのようなインパクトを与え、社会や人々の生活をどのように変える可能性があるのか。壮大な社会実験となりそうな本事案について考察する。
アメリカ最大の車社会ロサンゼルスにロボタクシーが登場
自動運転車開発のWaymo(ウェイモ)がロサンゼルスで無人ロボタクシーの運行を開始し、現地で話題になっている。Waymoがサービスを開始したのはダウンタウンを中心とするロサンゼルス郡内80平方マイル(約207平方キロメートル)のエリアで、主要観光地のハリウッド、ビバリーヒルズ、サンタモニカなどが含まれている。ロサンゼルスの住民だけでなく、ロサンゼルスを訪れるビジネス客や観光客にとっても気になる存在になりそうだ。
ロサンゼルスといえばアメリカ最大の車社会であるとされる都市である。ロサンゼルス郡内には東西に州間高速道路(Interstate highway)10号線が、南北に同5号線がそれぞれ縦横断し、片道5-6車線の巨大高速道路を無数の車が埋め尽くす光景が毎日繰り広げられている。ロサンゼルス市民にとっての移動手段とはすなわち車であり、ロサンゼルスでは一人ひとりがそれぞれの靴を履くのが当たり前のように、ほぼ「一人一台」ずつ車を運転している。
地下鉄やバスなどの公共交通機関はあることはあるが、東京のように日常的・一般的に使われることはほとんどなく、少なくとも筆者から見ると、申し訳程度に運行されているに過ぎない。そんなロサンゼルスに、突如無人ロボタクシーが登場したのだから現地住民が驚いたのも当然だろう。
ロボタクシーは専用アプリで操作
ところで、ロボタクシーはどのように利用するのだろうか。Waymoのロボタクシーは有人のライドシェアサービスのUberやLyftと同様に、専用のアプリで操作する。スマートフォンに専用アプリ「Waymo One」をインストールしてアカウントを開設し、行き先を入力すると付近にいるロボタクシーが迎えにきてピックアップしてくれる。Uberなどとの違いは、ドライバーが人間かAIであるかの違いだけだ。ピックアップ時にユーザーの名前のイニシャルが表示灯に表示されるので、自分を迎えに来た車であることを確認してアプリを使ってドアを開け、乗車する。あとは車内に流れるBGMに身をゆだねて目的地まで運んでもらうだけだ。
ロボタクシーは当然ながら無人のため、有人のライドシェアサービスのように人間の運転手と会話をしなければならないといった気まずさがないと一部の人に評判だ。また、最大で4人まで一度に乗車できるので、家族連れなどの旅行客にも喜ばれるだろう。
気になる料金だが、アメリカの著名経済雑誌の記者が試してみたところでは、先行してロボタクシーのサービスが開始されたアリゾナ州フェニックスで約5マイル(約8キロメートル)の距離を20分かけて移動した料金は11ドル(1ドル155円で計算、約1705円)だったそうだ。レート的にはUberやLyftなどの有人ライドシェアサービスとほぼ同じで、チップを支払う必要が無い分割安だったそうだ。UberやLyftでもドライバーへのチップ支払は「強制」ではないとされているもののほとんどの客が自発的にチップを支払っており、「チップ差額」がロボタクシーの利用を促す要因のひとつになりそうだ。
ロボタクシーの「運転手」は誰か?誰が事故の責任を負う?
利用者がロボタクシーを利用する際に気になることに、事故が起きた場合に誰がその責任を負うのかがあるだろう。Waymoはアリゾナ州フェニックス、続いてカリフォルニア州サンフランシスコで先行してロボタクシーの運行を試験的に行っていたが、運行中に何度も事故を起こしている。アメリカ高速道路安全管理局(National Highway Traffic Safety Administration (NHTSA))によると、Waymoはフェニックスで運行を開始した2021年から2023年までに150件の車両追突事故を起こしている。しかし、事故の責任の所在については、あくまでもケースバイケースとしている。
当然のことながら、交通事故は単にドライバーの過失や不注意によってのみ発生するものではない。車両そのものの欠陥や瑕疵、歩行者やペットなどによる急な飛び出し、道路の破損、大雨やがけ崩れなどの自然災害、いたずらなどの交通妨害等々、交通事故を引き起こす要因は複数存在し、相互に絡み合うのが現状だ。
しかし、ロボタクシーの場合、車両特にソフトウェアの運用などについてはメーカーが責任をもって行うべきであり、車両自体の瑕疵やトラブルが原因で事故が発生した場合、車両の運用者であるWaymoが責任を負うのは当然だと考えられる。難しいのは、車両の瑕疵やトラブルをどの基準をもって認定するかについての一般的なルールの統一化であり、この部分が現在、ロボタクシーが運行されている自治体の担当者を含む関係者らが激しく議論しているところなのである。
ロボタクシーの普及は社会の何を最適化するのか?
今後のさらなる普及が見込まれているロボタクシーだが、その普及は社会の何を最適化するのであろうか。その最大のものは、自動車の運行効率の改善や交通事故の減少によるパブリックモビリティ(Public mobility)の最適化だ。
ミシガン大学交通調査研究所、バージニア工科大学交通研究所、ゼネラルモーターズおよびその子会社クルーズなどが共同で実施した調査は、有人のライドシェアサービスと無人のロボタクシーの運行状況と事故発生率などをまとめ、両者を比較した上で大変興味深い結論を出している。
まずは両者のクラッシュレート(Crash rate, 事故発生率)だが、有人のライドシェアサービスが100万マイル(約160キロメートル)あたり50.5件であるのに対し、ロボタクシーは100万マイルあたり23件となっている。一般的な交通事故の原因の69%は人間のドライバーの運転ミスや不注意であるとされており、実際に人間のドライバーをAIにリプレースすることでロボタクシーは事故発生率を低減させている。
続いて事故によるドライバーや搭乗者などの傷害リスクだが、有人のライドシェアサービスが100万マイルあたり0.24件、死亡事故0.01件なのに対し、ロボタクシーは100万マイルあたりそれぞれ0.06件、0件となっている。ロボタクシーは事故は起こすものの、死亡事故はまったく起こしていない。なお、上述のアメリカ高速道路安全管理局の調査でも、自動運転車の死亡事故発生率は有人運転車よりも低いという結論が出ている。
ロボタクシーの普及により交通事故発生リスクが低減すれば、交通インフラのよりスムースな利用が可能になり、ひいては怪我人の輸送や治療などにかかる公共サービスの投入量も低減できる。ユーザーにとっても自動車保険などを含めたトータルの車両保有・維持コストを大幅に削減することが可能になる。そして何よりも、今まで人間が行ってきたドライバーという仕事から人間が解放され、浮いた時間を「新たな価値の創造」や「より生産性が高い仕事」に費やす転機にできる可能性が生じる。
ロサンゼルスで始まったロボタクシーの本格的な運航開始は、これまで形成・継承されてきた車社会の常識や概念を打ち砕き、人々の生き方そのものを抜本的に転換するのみならず、生きる目的や価値観すら大きく変える可能性がある。アメリカ最大の車社会で始まった壮大な社会実験の今後に大いに注目したい。
参考文献
https://www.cnbc.com/2024/11/12/waymo-opens-robotaxi-service-to-anyone-in-lo
s-angeles.html
https://waymo.com/waymo-one-los-angeles/
https://www.carlsonattorneys.com/news-and-update/robotaxi-safety-who-is-liable-in-a-crash
https://www.warpnews.org/transportation/self-driving-cars-are-safer-than-human-drivers-study-shows/
前田 健二
経営コンサルタント・ライター
事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。