SCIENCE
日本だけじゃない。世界を取り巻く「酷暑」の実態
目次
地球の“沸騰”が止まらない。2024年7月22日、世界の平均気温が観測史上最高を記録した。欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」(※1)によると、世界の日平均気温は17.16度に達し、前日の7月21日に記録された最高値17.09度を0.07度更新した。
つい20年ほど前まで、地球温暖化といえば「北極の氷が減っている」「シロクマが住む場所を失う」というどこか遠い場所で起きている出来事だった。しかし今では、身近に迫る酷暑が私たちの日常を脅かしている。今年の夏、肌に焼けつくような暑さを感じ、地球温暖化の影響が頭をよぎった人は少なくないだろう。
今回は、世界各地で異常な高温が続く状況をレポートしながら、その背景や原因、私たちが酷暑をどう捉え、対処していくべきかを探っていこう。
世界各国の「最も暑い7月」
気象庁の発表(※2)によると、2024年7月の日本の月平均気温は、統計を開始した1898年以降の7月として記録的な高温となった。全国153の気象台等のうち62地点で、12地点のタイ記録を含む歴代1位を更新したほか、東日本と沖縄・奄美地域では、統計開始後として最も暑い7月になった。
都市別に見ると、栃木県佐野市で7月29日に41.0度を観測。同日には、群馬県、静岡県、埼玉県、茨城県の合計6都市で40.0度を超えた。
暑さの記録を更新したのは日本だけではない。世界でも異常な暑さが観測されている。
デスバレーでは月平均気温が42.5度で過去最高を記録
世界で最も暑い場所の一つと知られる、アメリカのカリフォルニア州にあるデスバレーでは、月平均気温が42.5度を記録し、過去最高を更新した(※3)。そのうち日中の最高気温が51.7度を超えたのが9日間で、月間の最高気温は7月7日の54度だった。ちなみに平均最低気温は35.1度で、灼熱の夜が続いた。
バーレーンでは1902年の観測開始後初めてとなる月平均気温37.4度
中東のバーレーンでは、1902年の観測開始から最も高い37.4度を記録した(※4)。平年の7月と比べて2.3℃高い気温で、これまでの最高記録だった36.9度を0.5度上回った。
モロッコの内陸部で48.3度を記録し21人が熱中症で死亡
モロッコでは特に中央部と南部で気温が高くなっており、内陸部にあるベニ・メラルでは、48.3度を観測(※5)。住民のほとんどがエアコンなしで生活しているため、熱中症で21人が死亡した。
酷暑が続く原因は、温室効果ガスの増加が一因
なぜ、世界中でこんなにも暑い夏が続くのだろうか。結論から言うと、今私たちが直面している暑さは、温室効果ガスの排出と密接に関連しており、排出量が削減されない限り、夏の気温はさらに高くなる可能性がある。
そもそも地球温暖化とは、二酸化炭素などの温室効果ガスが大気中に増えすぎることで、地球全体の気温が上昇する現象だ。温室効果ガスは地球が適切な温度を保つために必要なもので、温室効果ガスがないと、地表の気温はおよそマイナス19度になる。
産業革命以降、人類は大量の温室効果ガスを排出し続け、その結果、大気中のガス濃度が急増している。温暖化が人類の活動によるものであることは、以前に紹介したIPCCの報告書でも指摘されている。2023年に発表された最新の「第6次報告書」では「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と記載された。
温室効果ガスの増加は、地球が受けた太陽エネルギーの放出を妨げ、その熱が宇宙へ逃げずに大気中に留まる原因となっている。その結果、気温の上昇が抑えられず、異常気象や酷暑を招いている。
また、地球には人的要因による温暖化に加え、気象的現象として気温が高くなる「エルニーニョ現象」と「ラニーニャ現象」がある。
2023年の夏は、地球温暖化とエルニーニョ現象が重なり、世界的に高温となった。エルニーニョ現象とは、太平洋赤道域で海面水温が平年より高くなることで、日本を含む世界の天候に影響を及ぼす自然現象である。
2024年8月現在、エルニーニョ現象はすでに解消されているものの、温室効果ガスが増え続ける限り、エルニーニョとラニーニャが夏に発生すると、“最も暑い夏”が更新され続ける可能性が高い。
一番暑い夏が引き起こす暮らしへの影響
酷暑は、私たちの生活に多大な影響を及ぼし続けている。
まず、自然災害の増加が顕著だ。2024年7月も豪雨や洪水、干ばつ、熱波などが各地で発生し、これにより人々の平穏な暮らしが脅かされている。地球温暖化が進行する中で、異常気象はさらに頻繁に、そして激しさを増すことが予想される。
これらの自然災害は、経済にも大きな影響を与える。農業やインフラが被害を受ければ、復旧に多大なコストがかかるだけでなく、長期的には地域の経済発展に影を落とす可能性さえある。
最近、オリーブオイルやオレンジジュースの価格高騰に驚いた人もいるだろう。異常気象による高温や乾燥、干ばつによって不作となっているためだ。遠くの国で発生した自然災害も、食糧価格の高騰という形で私たちの暮らしにじわりと影響を与えている。
さらに、連日のように報道される熱中症も、酷暑の顕著な影響の一つだ。“災害級の暑さ”という表現は決して大袈裟ではなく、これまで経験したことのない暑さが続くことで、私たちの命は脅かされる状況に直面している。
健やかな暮らしのためにできることとは
さまざまな場所で「地球のために行動しよう」「温暖化を食い止めよう」といったキャッチコピーを見聞きする。だが、正直に言ってその言葉で心を動かされたという人はどのくらいいるだろうか。
地球温暖化が指摘されるようになった頃と同じように、まだ「遠くで起きていること」として捉えている人がいるかもしれない。しかし、紹介してきたように、地球温暖化はもはや私たちのすぐそばで起きている。
2024年の夏に感じた焼けるような暑さを思い出してほしい。この暑さや、それ以上をまた体験したいだろうか。
もし、少しでも地球温暖化を自分ごととして感じ、何か行動を起こす必要があると考えたなら、ぜひ次の3つのことを実践してみてほしい。
再生可能エネルギーへの切り替え
まずは、再生可能エネルギーの利用に切り替えること。日本は未だに電力の約8割を化石燃料に頼っているが、最近では技術の進歩や製造コストの削減によって、太陽光電力が大幅に値下がりしている。
太陽光電力を使うことは長期的にみて、お財布にも地球にもやさしい。また、自宅にソーラーシステムを蓄えておけば、自然災害時に電力を自前で賄うこともできる。このような備えは、非常時の安心感を高めるだけでなく、持続可能な未来への一歩でもある。
再生可能エネルギー利用を促進する政治家を選ぶ
著者が留学していたデンマークでは、再生可能エネルギーの発展を進める政策が広く支持されており、政治家が気候変動に対してどういった政策を考えているかは、投票の際の重要なポイントになっていた。
酷暑が人命を脅かす今、日本でも選挙での争点として気候変動へのアプローチを語らない政治家を果たして選ぶべきなのかという議論も活発になっている。
近く迫る衆議院選挙では、再生可能エネルギーへの考え方を一つの基準として投票することも、私たちにできる大きな一歩だ。
再生可能エネルギーの使い心地を話してみる、聞いてみる
肩肘を張らずに、気候変動や再生可能エネルギーについて親しい人と話題にすることも大切だ。もし再生可能エネルギーをすでに取り入れている人は、ぜひ積極的に自身の体験を発信してみよう。
太陽光パネルを取り付けている家庭の割合は、令和3年で全国で6.3%(※6)とまだまだ少ない。慣れ親しんできた電力を切り替えるのに、心配や不安もつきものだ。だからこそ近しい人と「実際どうか」という会話をすることが少しでもハードルを下げるきっかけになるかもしれない。
地球温暖化は進行中であり、その影響は私たちの生活に明確に表れている。最悪のシナリオをさけられるかどうかは、現代を生きる私たちの決断にかかっている。個人にできることは限られているが、国民としてまとまり、政府や国際社会と協力することで、大きな変化を生む時間はまだ残されている。
参考文献
※1 New record daily global average temperature reached in July 2024
https://jp.reuters.com/life/7RH3W32ONZISTP67UJPTY43CZ4-2024-01-10/
※2 7月の記録的な高温と今後の見通しについて|気象庁
https://www.jma.go.jp/jma/press/2408/01a/20240801_julytemp.html
※3 Hottest Month in Death Valley History|National Park Service
https://www.nps.gov/deva/learn/news/hottest-month-in-death-valley-history.htm
※4 Extreme heat continues throughout July with devastating impacts
https://wmo.int/media/news/extreme-heat-continues-throughout-july-devastating-impacts
※5 Life and death in the heat. What it feels like when Earth’s temperatures soar to record highs|Indipendent
https://www.independent.co.uk/news/ap-life-morocco-earth-washington-b2586864.html
※6 家庭のエネルギー事情を知る|環境省
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/kateico2tokei/energy/detail/03/#:~:text=%E5%9C%B0%E6%96%B9%E5%88%A5%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%85%89%E7%99%BA%E9%9B%BB,%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
Ayaka Toba
編集者・ライター
新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。