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生成AIの進化で「1人ユニコーン企業」は誕生するか?

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今年始めにRedditの創業者アレクシス・オハニアンとのビデオインタビューでOpenAIのサム・アルトマンCEOが、生成AIなどの進化により社員が創業者しか存在しない「1人ユニコーン企業」が誕生する可能性について言及した。

アルトマン氏の発言はセレブラル・バレーのIT企業コミュニティで話題となり、その可否や内容について激しい議論が始まり、現在も続いている。果たしてアルトマン氏の主張通り「1人ユニコーン企業」は誕生するのか考察する。

OpenAIアルトマンCEOの発言

今年2024年1月、YouTubeにひとつの興味深い動画が投稿された。Redditの創業者アレクシス・オハニアンによるOpenAIのサム・アルトマンCEOへのインタビュー動画だが、その中で両者は次のような会話を展開し、視聴者の関心を集めた。

(オハニアン)「AIなどの各種のテクノロジーの進化により、より高いパフォーマンスが出せ、従来よりもより少ない数のメンバーによるチームが誕生する機運が日増しに高まっていると思うけれど、これってセレブラル・バレー*1で現在進行中のトレンドと考えてもいいのかな?」

(アルトマン)「(セレブラル・バレーのコミュニティでは)我々は、10人の社員が組織・運営する10億ドル(約1520億円)以上の時価総額の『10人ユニコーン企業』(Ten persons unicorn)が間もなく誕生すると予想しています。また、私が参加しているセレブラル・バレーのCEO達が集まるグループチャットでも、1人の社員しか存在しない「1人ユニコーン企業」(One person unicorn)が生まれる可能性を争う合法ギャンブルに賭けをする人が続出しています。『1人ユニコーン企業』は、AIテクノロジーの活用なしに生まれることは想像不可能でが、いずれにせよ、やがて誕生することになるでしょう」

アルトマン自身がセレブラル・バレーを代表するコミュニティメンバーのひとりだが、セレブラル・バレーでは、「1人ユニコーン企業」の誕生はもはやコミュニティのコンセンサスであり、「いつどのような会社が、どのように生まれてくるのか」に関心が集まりつつあるフェーズに移りつつあるようだ。

ユニコーン企業には「一定数の従業員が必要」は本当か?

Vintage illustration of Midsummer pageant at Chester, 16th Century people dressed as Giants, unicorns, camels and dragons

ユニコーン企業とは、2013年にアメリカのベンチャーキャピタリストのアイリーン・リーが名付けたもので、「時価総額1億ドル以上の未上場企業」のことだ。代表的なユニコーン企業としては、スペースX(時価総額2100億ドル、日本円換算約31兆9200億円、以下同じ)、オンライン決済大手Stripe(700億ドル、約10兆6400億円)、自動運転車開発Nuro(86億ドル、約1兆3072億円)などが挙げられる。なお、1人ユニコーン企業の到来を予言しているサム・アルトマンのOpenAIも時価総額800億ドル(約12兆1600億円)のユニコーン企業だ。

時価総額1億ドル以上の企業となれば、一般的には「一定数の従業員が必要」であるというイメージや感覚が付きまとうだろう。実際のところ、時価総額が大きい会社であるほど、従業員を含む社員の総数は多くなると考えるのが「常識的」だ。例えば、ユニコーン企業の代表格スペースXの直近の社員数は1万3000人だ。アルトマンのOpenAIにしても直近の従業員数は2100人となっている。これまでの常識によれば、会社の時価総額が増えるほど、社員数は増加するのが当たり前だった。

しかし、社員数55人のWhatsAppを、Facebookが190億ドル(約2兆8880億円)で買収したのはそれほど過去の話ではない。また、そのFacebookは、さらに買収当時の社員数わずか13名のInstagramも10億ドル(約約1520億円)で買収している。AIなどの新テクノロジーの進化と普及は今日までに驚異的に進んでおり、より小人数の社員で構成・運営される「小人数ユニコーン企業」が生まれる土壌は現在さらに整ってきており、今後さらに豊かになってゆくのは間違いないだろう。

「1人ユニコーン企業」が生まれる可能性が高い業界は?

Close-up of of the icon of the ChatGPT artificial intelligence chatbot app logo on a cellphone screen. Surrounded by the app icons of Twitter, Chrome, Zoom, Telegram, Teams, Edge and Meet.

では、「1人ユニコーン企業」が生まれる可能性が高い業界はどこだろう。それは間違いなくAI、特に生成AIを最大限に活用できるコンスーマーソフトウェア業界だろう。上述のWhatsAppやInstagramなどの売却ケースと同様に、カナダのマッチングソフトメーカーのプレンティ・オブ・フィッシュ(Plenty of fish)は、創業者のほかに社員わずか一名の時に1億ドル(約152億円)で売却されている。プレンティ・オブ・フィッシュを買ったFrind社は、従業員が75名に増えた段階でマッチ・グループに5億7500万円(約874億円)でプレンティ・オブ・フィッシュを転売している。いずれもユニコーン企業のサイズには到達していないが、その可能性を十分にうかがうことができる事例と言えるだろう。

ソフトウェアの開発に生成AIなどの活用が進めば、従来のように大量の従業員を雇用して製品づくりをする必要がなくなることも考えられる。そしていったん製品が出来てしまえば、家電製品やスマートフォンなどのコンスーマーグッズ製品のように生産し続ける必要がなく、単にサービスとして提供すれば良くなる。不具合などのバグやトラブルの対応も、人間ではなくAIに丸投げすることも可能になるだろう。製品の開発・製造・販売・サポートのどのフェーズにおいても人間の関与は必要なく、AIに丸投げして完結できる未来が来るかもしれない。
 
そして、コンスーマーソフトウェアのスタートアップ企業の時価総額の多くの部分は通常、ソフトウェアが生み出す「将来価値」によって決まるケースが多い。創業当初社員が創業者1人しか存在せず、その創業者自らが生成AIの力を借りてソフトウェアを開発し、インターネットを通じて公開した場合を考えてみよう。

公開当初はユーザー数がわずかしかいなくても、SNSなどを通じて面白いという噂が広まり、瞬く間にユーザー数が増えたとする。例えば当初のユーザー数が1人から、サービス開始から三か月で1万人、六か月で20万人、一年で100万人に増えたとする。ベンチャーキャピタルなどの投資家は、投資検討先の会社が「現在いくら稼いでいるのか」ということもさることながら、「将来いくら稼ぐようになるのか」を、より重視して評価する傾向があるため、ユーザー数が爆発的に増えている会社には相応の「評価」(バリュエーション)つまり「時価総額」を算出する可能性が高い。そのようなことが実現した場合、晴れて「1人ユニコーン企業」が誕生する可能性が高いのだ。

「1人ユニコーン企業」の誕生はいつか?

unicorn and man figure on chess board for business concept 3d rendering

では、実際にそのような「1人ユニコーン企業」はいつ生まれるのだろうか。「1人ユニコーン企業」の到来を予言しているアルトマンは、いつ生まれるかについては詳しく明言していないものの、必ず生まれるというニュアンスの発言はしている。

筆者は、ある日突然1人ユニコーン企業が誕生するのではなく、先に創業者を含めた社員数10名以下の「10人ユニコーン企業」から誕生し、それに続いて「1人ユニコーン企業」が誕生すると予想している。キリスト到来の先に洗礼者ヨハネが誕生したように、まずは「道を整える人」から登場し、やがて来るべき人がやって来るというイメージだ。

筆者にさらなる予想を許していただけるなら、「10人ユニコーン企業」の誕生が今から三年から五年以内、「1人ユニコーン企業」の誕生が今から五年から十年以内と予想させていただきたい。いずれも誕生する業界は上述の通りコンスーマーソフトウェア業界で、誕生する国はアメリカであるとも予想させていただいておこう。

注釈・参考文献

注釈1: 「セレブラル・バレー」(Cerebral Valley)とは、サンフランシスコ市の中心部ヘイズ・バレーに誕生した、AIスタートアップなどを中心としたハイテクスタートアップ企業の集積地域。2020年頃より全米からAI関連人材が集まりだし、現在までに小さなコミュニティを形成している。

https://www.forbes.com/sites/siladityaray/2024/06/27/spacex-reportedly-valued-at-around-210-billion-in-planned-secondary-market-share-sale/
https://techcrunch.com/2024/07/15/ major-stripe-investor-sequoia-confirms-70b-valuation-offers-its-investors-a-payday/?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAADvu6vxtlR55GyvE-dxHsHKj4kfCaQqlrZIqusbg2k6Nct6q0RTYHMOosrHdUraUIzjxIEn0Z1gzqL5sUhlJBvmVgW-SC8mFij-M8UqDz5mBf5fu1NJzAXsjFT2n7y2gYBuFkUBKP7ohOTMoCn6TueEF1qydtcGjzQXIhZP7IUvZ
https://equitybee.com/companies/company?company=nuro
https://www.nytimes.com/2024/02/16/technology/ openai-artificial-intelligence-deal-valuation.html#:~:text=The%20A.I.,in%20less%20than%2010%20months.
https://siliconvalleyjournals.com/company/openai /
https://finance.yahoo.com/news/could-ai-create-one-person-120000722.html

WRITING BY

前田 健二

経営コンサルタント・ライター

事業再生・アメリカ市場進出のコンサルティングを提供する一方、経済・ビジネス関連のライターとして活動している。特にアメリカのビジネス事情に詳しい。

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