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廃プラスチックリサイクルの現状、大半は燃やされている。電線リサイクルから見るマテリアルリサイクルの難しさ
目次
2015年頃、ウミガメの鼻に刺さったプラスチック製ストローを抜く動画が公開され、世界に衝撃が走った。苦しそうにしている姿に心を痛めた人も多かったことだろう。それを一つのきっかけとして、海洋プラスチックごみが引き起こす環境汚染や生態系への影響を世界中のメディアが報じた。2010年時点で、およそ480万トンから1270万トンのプラスチックが海洋に流出している※1という。
日本人も無関係ではない。海洋廃プラ問題
原因として、海洋プラ廃棄物の約9割は、中国・長江などの10の主要河川から海に運ばれているとドイツの研究チームが2018年に発表した。日本でも多くのメディアが当時取り上げていたと記憶している。その結果だけをみると、これは果たして自分の問題なのかと思う人も多かったのではないだろうか。
しかし、日本がその中国へ長らくプラごみを大量に輸出していたと知ったらどうだろう。
中国は、2017年に廃プラスチックの輸入を突如禁止したが、それ以前の2016年、日本の総廃プラ輸出量は152万トン。そのうち、中国へは80万トンも送っていたのだ。このうちどの程度が河川に流出したかは分からないが、やはり関連性は否めないだろう。
最初の話に戻るが、海洋プラの問題は決して他人事ではない。日本の暮らしがそのまま直結している話なのだ。
マテリアルリサイクルの少なさ
中国が廃プラを輸入禁止にしてから、プラごみは代替国として東南アジアへ向け先が変わったが、それらの国々も次々に輸入規制を発表。今後は、世界各国で自国によるリサイクルが重要になってきているが、日本はどうだろう。
まず、廃プラの排出量がどれだけあるかみてみよう。プラスチック循環利用協会によると、2020年の廃プラ総排出量は822万トン。このうち、一般廃棄物が410万トン。産業系廃棄物が413万トンだ。このうち有効利用できている廃プラは710万トン、未利用廃プラが112万トンとなっている。これだけ見ると、「86%がリサイクルできていて何が問題だ?」と思われる人も多いだろう。
ただ、これにはカラクリがある。ほとんどがサーマルリサイクルなのだ。サーマルリサイクルとは、プラスチックを焼却場で燃やして発生したエネルギーを回収するリサイクル方法。発電に使用したり、セメントの原燃料に使用したりしている。「廃プラからエネルギーを取り出せているので、リサイクルできている」という理屈だ。確かに一理あるかもしれないが、微量のダイオキシンが発生し、当然CO2排出量も無視できない。
そもそもこのサーマルリサイクル、焼却することに意味をもたせているのは、埋立処分場がつねにひっ迫しているからだ。埋め立てする量を減らし、処分場の延命措置をしているという意味合いもある。環境省の発表※2では、2019年度末時点で、一般廃棄物最終処分場が1620施設。残余年数が全国平均で21.4年。産業廃棄物の最終処分場に至っては、2018年度の残余年数が全国平均で17.4年だった。ただ、一般廃棄物処理場も産業廃棄物処理場も数年横ばいで、本当に減ってはいない。これは、最終処分場の拡張や新設された処分場、サーマルリサイクルなどが高い水準で行われていることに起因しているものだと思われる。ただその一方で、処分場の建設には、周辺住民の反対などが多く一筋縄ではいかない。今後も数が一気に増えることは考えにくいだろう。
そもそも日本という狭い国では、埋め立てする場所は限られてくるし、半永久的に残ってしまう廃プラを含むゴミを人間のエゴだけで地球に“隠して”いいのだろうか。
リサイクルに話を戻そう。サーマル以外では、ケミカルリサイクルがわずか3%の27万トン。これは、廃棄物を化学合成することでほかの物質に変え、その原料をもとに新たな製品をつくるリサイクル技術だ。昭和電工の川崎事業所では、プラごみから水素を作るケミカルリサイクルを行っている。ただ、水素自体はあまり売り先がなく、コストが合わないこともあって、多くを自社工場で使用するアンモニアの原料にしている。ケミカルリサイクルは、環境に特化したリサイクルであるが、設備が大型化になりがちなので、コストがかかりすぎてあまり普及していない。
そして、いわゆるマテリアルリサイクルは、21%の173万トンだ。ただ、この中には74万トン※3の輸出量も含まれているので、実質、国内でマテリアルリサイクルしているのは、わずか99万トン。全体のわずか12%だ。著者はこれを知った時にかなり衝撃を受けた。
電線リサイクルから見えてくるマテリアルリサイクルがしにくい構造
では、どうしてマテリアルリサイクルが普及しないのだろう。
さまざまな業界の製品でプラスチックは使用されているため、それぞれで状況が異なると思う。そこで、著者が取材してきた業界のものを具体例として書こうと思う。私は、2019年に独立してフリーライターになったが、それまで金属業界の新聞記者だった。鉄や銅、アルミなど金属業界について取材していた。私は、その中でも下流工程である金属リサイクルが担当だった。非鉄関係の部署に在籍していたので、銅や鉛のスクラップを市中から集め、それを金属加工メーカーや製錬会社に売買する問屋が私の担当だった。
中国で廃プラの輸入が禁止になったことで、この銅スクラップ問屋も少なからず影響を受けた。問屋で扱う品物は、工場発生の銅製品の打ち抜きくずや切れ端などがあるが、そのなかで一番高価なものが1号銅線、通称ピカ線と呼ばれるものだった。これ、何かというと電線のこと。鉄道路線や市中に張り巡らされているもの、発電所などにある電線を張替え工事する際に出てくるスクラップだ。
電線の被覆材は、ポリ塩化ビニール(PVC)というプラスチックでできたものが多く、中に銅線が入っている。それを剥線機と呼ばれる機械に挿入し、バナナの皮をむくようにPVCでできた被覆部を取り除く。取り出された銅をスクラップ問屋は高く売るのだが、このPVC自体も従来は売り物として扱われていた。中国に廃プラとして輸出していたのだ。しかし、先ほど話した中国の輸入規制によって、受け皿をなくしたPVCが、著者が取材していた2018~2019年当時は市中で滞留していた。
解決策としては、基本的に焼却処分するしかない。お金を払って処分する。つまり有価物だったものが、お金を払って処分する産業廃棄物に成り代わったのだ。これに頭を悩ませたスクラップ問屋たちはどうにか売れないかと模索していた。
なぜ、マテリアルリサイクルできないのか。これには理由がある。電線は電線メーカーが各社三様、さまざまな規格のものがあり新製品も次々出てくる。そのなかには、熱劣化時に発生する塩素分を安定化させるため、鉛安定剤を使用した電線がある。現在はRoHS指令(ローズ指令)の規制対象の一つに鉛が含まれたことで、製造が難しくなり、鉛含有のPVC被覆材は少なくなった。しかし、スクラップとして市中に発生するのは、張り替え時。通常、電線の耐用年数は20年~30年とされているため、まだまだ発生することが予想される。
記者時代に取材した関東のプラスチックリサイクラーの社長の話では、PVC自体のリサイクルは可能だという。現に、電線に使用されるPVC被覆材は、軟質のものだが、硬質のPVCは塩ビ管で使用されており、これはそのまま新しい塩ビ管にマテリアルリサイクルされて海外に輸出されているという話を聞いた。また、軟質であっても、ピータイルやカーペットなどの床材、遮音シート、工場の敷材などに生まれ変わるという。ただ、この鉛安定剤が混入しているPVCに関しては、マテリアルリサイクルは難しいとの話だった。
銅スクラップ問屋のヤードも、取材がてら見学したことが多かったが、電線はさまざまな場所から、規格・製品ともごちゃまぜで入ってくる。あれをその都度、金属判別機を使用して、鉛含有かどうかを選別することは、人員を割けば可能かもしれないが、人手も足りない業界であったし、コストがとてもじゃないが合わない。また、製品によっては被覆材にPVCとよく似た難燃性ポリエチレンが使用されていることがある。これは姿形が似通っており、目視で判別するのは非常に困難だ。
また、PVC以外にもポリエチレンを使用した被覆材があるため、通常水選別を使用して、PVCとポリは分ける(ポリエチレンはサーマルリサイクルで売れるため)。しかし、難燃性ポリは厄介で、比重的にPVCに混入してしまうのだ。
PVCをリサイクルできている問屋もあったが、それはあらかじめ取引している企業が一定で、入ってくる製品が毎回同じ規格のものと決まっていたので、鉛含有の被覆材を徹底的に排除できていたから。
現在は、あれから3年経ち、少しは被覆材PVCのリサイクルが進んでいるかもしれないが、処理に苦慮している問屋もまだまだ多いだろう。
これはプラだけの問題なのか
こういった状況は当然金属業界だけでなく、さまざまな業界で直面している課題だと思う。現在は、一部か全部かは分からないが、プラスチックを使用していない製品・商品の方が珍しい。
一番の問題はコストだ。再生品を作る、使用するには人も金もかかりすぎるため、バージン材で製品を製造することが多いのだ。また、色の問題もある。プラスチックはよほど細かく選別しないと、色を統一できずにさまざまな色のものが混入する。そうしてできたペレットの色は、グレーか黒にしかならない。そうすると、ゴミや金属などを取り除き、バージン材と品質の遜色ないものになったとしても、色の問題で使えないことが多い。これもプラスチック循環利用協会の「プラスチックリサイクル基礎知識2022」の資料から、マテリアルリサイクルされた主な製品をみてみると、鉄道標識、境界杭、パレット、二段柵(擬木)、ジオステップ(法面点検・管理用階段)、マンホール、間仕切り用縁石(擬木)、散水栓ボックス、踏み台、段差スロープ、中央分離帯、車止め、ハンガー、たこ糸巻き、植木鉢などだ。私たちが日常使っているプラ製品にはほとんど使用されていないことが分かるだろう。
ただ、これ「誰が悪い」というのはないかと思う。リサイクルができない製品を作っているメーカーが悪いのかと問われれば、そういうことではないだろう。当然、メーカーは製品を売らなきゃいけない。電線でいえば、ユーザーである電力会社や鉄道会社などのニーズに応え、良いモノを開発していかなきゃいけない。PVCがコスト・性能的にも電線被覆材に適しているのだろう。では、その電力会社が悪いのか。電力会社は、国民が電気を滞りなく使用するため、事業を運営する必要がある。そこで今まで問題もなく使用してきたのに、リサイクルしやすいからといって、被覆材をほかの素材に変更した電線をすぐに使えるだろうか。おそらく価格も上がるため、そこにも対応する必要が生じる。
それでは、私たちが悪いのか。私たちの生活には、今ありとあらゆるところにプラ製品が使用されている。それらの使用を全てストップして生活することは不可能だ。資本主義である以上、競争原理が働き、いかに他の企業を出し抜くか、より良いモノ、消費者が購入するようなものは何かを考え作り続けてきた過程のなかで、“プラスチック”が生まれ、多くが使用されてきたのだ。
でも、本当に地球のことを世界中の人が考えれば、おのずと政府、民間問わず連帯し、プラの使用を極力避け、リサイクルできるような製品にしていくように動くだろう。例えば、「プラを使用し続けると、1年後には地球が滅ぶ」と言われたら。でもそんなことは今のところ起こらないし、それほど私たちの意識も変わらない。悲しいかな、資本主義でこれだけ発展してきた世界なので、今更変わることは難しい。
“お金”というものを、人類は今まで一番大事にしてきたからこそ、ここまで発展してきた。それは否定しないけど、今後はそれと同じぐらい“生命”を大事にしていかなきゃいけない。ヒト自身を大事にすること、隣にいるヒトを思いやる。それだけでいいと思う。それがひいては他の生命、地球環境まで波及していくと筆者は割と本気で考えている。
昨今の深刻化している環境問題を考えると、未来の子孫が住めなくなる世界がすぐそこまで来ているのではと非常に危機感を覚える。廃プラ問題は、今の世界構造が限界まで来ていることを教えてくれる一つの事象に過ぎないのではないだろうか。
参考文献
*1 「プラスチックの基礎知識 2022」 一般社団法人 プラスチック循環利用協会
*2 令和3年版 環境白書 参照
*3 プラごみをそのまま輸出したのではなく、破砕・洗浄などの中間処理を施した廃プラ。数値は、「プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況」を参照
太田 祐一
ライター・記者
住宅関係、金属関係の業界紙を2社経験後、フリーランスのライター・記者として独立。現在は、さまざまな媒体で取材・記事執筆を行っている。注力している分野は、モビリティ、環境問題、働き方、スタートアップなど。