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常識をふるい落とし、その先へ行こう。「ドラスティックチェンジ」とその劇薬的効能

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そもそも、荷物を本当に人が運ぶ必要があるのだろうか?

人々の欲望をいとも簡単に助長するアルゴリズムがWebショッピングの件数を無限増幅させていくが、ドライバーは足りず、物流の崩壊が最早目前に迫る。そんな時、あの手この手でドライバーを募るのが正解だろうか、もしくは少ないドライバーでも最大効率化を目指してこなしてゆくのが正しいだろうか。そのどれもが正解だが、日本はついにその全てを凌駕する究極の解決策に辿りついた。

人を一切必要としない、荷物だけが通る道路の建設である。

このまるでSFのような話は事実だ。現在日本は2030年までに東京ー大阪間を繋ぐ自動物流道路の建設を計画している。

現状の高速道路上に建設するという、国単位で取り組まなければ実現不可能な規模の大きさを誇る、ドライバー不足と物流の崩壊に備えた究極の最適化である。スイスでも地下にカーゴ専用道路の建設を進めており、日本はそれに倣った形だ。これまでもAIによる配送ルートや集荷の最適化、AI搭載荷積みロボ、ドローンや自動運転によるいわゆる配達代行など「物流2024年問題」の解決策が各企業で様々に検討、実装されてきた。しかし貨物のみを往来させる専用道路を造るなど、よもやここまでシンプルかつ劇的な解決策があったとは。完全に盲点であった。

このニュースは、ドラスティックチェンジに勇気を持って取り組めば、様々な問題が根本解決できる可能性を秘めていることを私たちに知らせてくれている。少子高齢化による労働力現象や地球温暖化や気候変動など、抜き差しならぬ切迫した問題に向き合うわたしたちがどうするべきか、今一度考えてみよう。

カルテが自分で動けばよいだけの話

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都立墨東病院の天井付近にあるレールを、ボックス型のカーゴがガガガと音を立てて走っている。

始めは頭上にあるために気づかなかったが、アタッシュケースのようなものが要塞のように広い院内を自走式で移動してゆく様は異様でそのカタカタとした動きには少しのノスタルジーも感じた。

劇的変革による根本解決は、意外と身近な場でも起こっていることを感じさせるのが、この「院内自走式運搬装置」だ。

ベビーブームと人口増加により70年代は病院での看護師不足が社会問題化しており、看護師の仕事の約1割をカルテや検体・薬品などモノを運ぶ作業が占めていたことから、運搬動作の合理化を検討する必要性が高まった。

そこでドイツのテレリフト社が実用化した「テレリフト」を、1975年に当時の大宮赤十字病院に導入したのが、このレール上自走式運搬方法の始まりである。例えば資材を運ぶ台車を大きくする、より多くの看護師に勤務してもらえるように工夫する、など、様々な努力が成されていたはずだが、院内全てにレールを走らせ、自動運搬できるようにするとは大胆な院内物流改革である。看護師はそれまで搬送に費やしていた時間を活用し、医療業務の向上が図れるようになった。

その後図書館の書籍搬送システムや銀行やオフィスでも書類や物品運搬用に採用され、運営最適化や業務の省力化に貢献した。その後、書類運搬の必要すら無い電子カルテと言う更に劇的な解決策登場に伴い生産を終了したが、未だ多くの大病院で現役である。

こうした不足要因に対する根本的かつダイナミックな対策は、様々な方法で私たちの社会に影響をもたらしている。

人は都市の上を移ろう存在だから

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NYミートパッキングディストリクト「MPD」はその名の通りに元々精肉工場エリアで、ニューヨークで一番治安の悪いと言われた場所だった。しかし、その上空を通る80年代に廃線になったまま放置されていた”目障りな廃墟”だった高架鉄道橋が突然、大規模な空中公園「ハイライン」に生まれ変わった。

長い高架の上に美しく緑が茂り、徒歩で廃線を歩く産業史を感じさせるノスタルジーと、NYを上から俯瞰しハドソン川を眺める清々しさは、つい歩きに行きたくなるような魅力を湛えていた。そしてハイライン周辺の街はあっという間にセレブの集まるレストランや高級ブティックの街に一変し、ミートパッキングディストリクトは映画の撮影なども頻繁に行われるような一大ホットエリアに大変貌を遂げたのである。

人間が暮らし歩く場所そのものである都市構造を変容させることで人の行動や環境全体に影響を与えることのできる都市計画は、古くから社会変革や問題解決、都市再生手段として用いられてきた。

古代ローマ時代、ペストが蔓延するとその対策として下水処理構造を創り出していたことは有名である。その後繰り返し流行する疫病問題を解決するため、城壁で市街を囲み検閲の役目を持たせる城砦都市構造や、下水道の建設など、公衆衛生という思想と共にヨーロッパの都市計画は発展を繰り返してきたとも言える。

ハイラインのように治安悪化の対策として大胆な都市計画が構想されることも多い。

デンマークのコペンハーゲン市にある「スンホルム」はホームレスのための街で、歴史的に路上生活者を集め強制労働させる地域として機能していた。しかし2000年から政策を転換。元々城壁のように街の周りが堀で囲まれており収容所のごとく近隣と分断されていたが、堀が埋め立てられ近隣地域と一体の構造になり、ホームレスの人々(居住者は”ユーザー”と呼ばれる)が自分の意志で短期・長期滞在できるシェルターやシェアハウスの街に変化した。

しかし住環境の区分が曖昧になった結果地域全体の治安が悪化してしまったが、再び堀や塀で囲って見えなくするのではなく、ユーザーと近隣住民が同じ場所でガーデニングを楽しめるシティガーデンや、人々が思いおもいに過ごすことができるデザイン性の高いストリートファニチャーなどを設置する都市計画を再実行し、居住者とユーザーを分断することなく包摂できるエリアの実現を模索した。開放的かつ街角を散歩するふと立ち止まったり座り込みたくなるような明るさが街にもたらされ、自然と他者との距離が近くなるような都市構造によって、スンホルムの治安改善を目指している。

運転が忘れ去られる未来

AIなど科学技術を用いてドラスティックチェンジを巻き起こすニュースは、枚挙にいとまが無い。テクノロジーの進化はとどまることがなく、最早不可能は無いように思える。

SNSで、ある自動運転車が事故を回避する動画が話題になっていた。突然路上側に倒れてしまった歩行者を、人間では不可能な速度で左に回避している。結局は対向車に軽く衝突してしまってはいるものの、人間の運転では確実に失われていた命が救われた瞬間を目撃した。

ロサンゼルスでは自動運転タクシーの導入が進むなど、最早完全にデイリーベースでの実用化が実現している自動運転。”人間は誤る者であり、その人間に運転を任せない”、という、シンプルだが思いもよらぬ大転換的解決策だ。世界中に普及する日が来れば、交通事故の発生数の劇的減少を実現できるのは間違いないだろう。

1910年代の北極探検家ピーター・フロイヘンの自伝『Arctic Adventure: My Life in the Frozen North』にも、当時デンマークで最初の1台だった自動車が起こした交通事故死を目撃した様子が描写されているが、その発明以来最も凄惨な形で人を日常的に殺傷し続けてきた車の影の側面を、ついに人類が克服することができるかもしれない。

出生率の低下と人口減少は、日本を含め様々な国で、国全体の経済や存続自体にすら影響を及ぼしかねない大変深刻な問題である。イーロン・マスクがテスラ社の株主総会で、オプティマスというAI搭載ロボットを紹介したことは記憶に新しい。マスクは最早人間に近いその滑らかすぎる指先の動きを見せつけるオプティマスを引き連れ「労働人口の減少に備え、労働力を産出する」と壇上で宣言して見せた。テスラ社の工場での動員を目指しているようだが、当然労働人口減少への対策というのは建前かもしれず、人件費コストカットからの利益追求が目的ではないのか今後見極めが必要ではある。

しかし実際に日本でも様々な分野で働き手が減少しているのは事実であり、人間がいなければロボットを創るというSF的で逆に現実感が無かったことを、堂々と実現させたことは凄いとしか言いようがない。

中国ではAIが”世界最高峰の授業方法”を学習して、ユーザーごとにカスタマイズした授業を構成し子どもを教えるサービスも始まっており、プログラマーたちがChatGPTをトレーニングツールとしても使用し始めていることを考えれば、その実力は確かで需要は非常に高いだろう。こうしたソリューションを日本が同じスピードで導入することは難しいだろうが、昨今の壊滅的な教員不足や教員の働き方改革に抜本的解決をもたらすのは間違いないだろう。

ただしこうしてテクノロジー偏重型の社会変革を追求していると、最近顕著になったテック右派の台頭や科学信奉による優生思想の復活などが主流になる可能性も孕んでおり、その動向には細心の注意が必要である。

全てが緑になる夢を見た

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こうして国単位で問題に取り組む姿勢や、変化を恐れないクリエイターたちのアイデアを実現できる柔軟な態度が一般的になれば、どんな問題でも実際に改善できる可能性がある。そのためには、今そこにある問題を見過ごさず、自分ごととして引き寄せて検討する必要があるだろう。

例えば今やクリメイトチェンジの影響は明らかで、日本の異常な酷暑や四季の崩壊は私たちに恐怖心すら与えているが、その対策に何か特別に行動するということができず社会全体が”正常性バイアス”の中にいるような気になってくる。

しかし、もし国中のアスファルトが黒ではなく緑色や完全緑化した芝のようなものだったら、都市部の屋上が9割緑化していたらどうだろう。

全ての人が冷房を遮断する日があったら、全体の気温をどれくらい下げることができるだろうか。またスーパーの個包装が全て無くなったら、どれくらいゴミを無くせるだろうか。

どれも夢想ではない。やろうとすれば「できる」のである。

テクノロジーの急激な発展は、倫理の逸脱や権利侵害、フェイクやヘイト、様々な問題を増幅させる可能性も内包し続けており、日本的な慎重な検討も無視されるべきでは無い。また劇的な政策は土地再編のための強制立退など民意を無視しかねない強硬な側面もあることを忘れてはならない。

ただし、遥かに高性能になった最新版Chat GPT「Open AI o1(ChatGPT o1)」のリリースや、オプティマスGen3の発表と工場で既に始まっている実用化トレーニング、更には富士裾野にて建設が進むトヨタによるモビリティのための実験都市「ウーブン・シティー」が2025年から実証を始める予定であるなど、全く新しい取り組みが社会を変えてゆくためのツールやセッティングは既に揃っている。深刻な問題に直面し悲観的になるのではなく、劇的に解決できると前向きに実感できるならば、それほどエキサイティングなことはない。

人口減少、気候変動、経済停滞、物流崩壊など、様々な問題に取り組まざるを得ない日本にも、大胆なドラスティックチェンジの波がやってくることは、間違いないだろう。

参考文献

「自動物流道路」実現目指し具体的検討へ 東京~大阪念頭 政府
NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240515/k10014449211000.html

東京―大阪の高速道に自動物流道、トラック3.5万台削減
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA26D9C0W4A620C2000000/

How an automated highway could help Japan’s logistics industry
World Economic Forum
https://www.weforum.org/stories/2024/11/japan-automated-highway-logistics/#:~:text=To%20address%20the%20anticipated%20decline,major%20cities%20prone%20to%20congestion.

Self-driving pods could transport freight in tunnels beneath Switzerland
CNN
https://edition.cnn.com/2023/08/07/travel/self-driving-underground-pods-switzerland-cargo-sous-terrain/index.html#:~:text=In%20Switzerland%2C%20an%20ambitious%20proposal,on%20trucks%20for%20moving%20cargo.

Future freight: Swiss underground mega-project slowly picks up speed
Swissinfo.ch
https://www.swissinfo.ch/eng/business/future-freight-swiss-underground-mega-project-slowly-picks-up-speed/48937406

病院や図書館でモノレールシステム 「テレリフト」が活躍
DAIFUKU
https://www.daifuku.com/jp/daifuku-square/article/000789/

WRITING BY

伊藤 甘露

ライター

人間、哲学、宗教、文化人類学、芸術、自然科学を探索する者

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