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達成見込み16%のSDGs。期限まであと6年で求められる「ポストSDGs」
目次
日本でもすっかりおなじみとなったSDGs。2018年ごろからメディアで取り上げられ始め、現在では、老若男女問わず「環境や地球にいいこと」として広く浸透した。
しかし、SDGsの達成期限である2030年まであと6年に迫っている。気候変動や経済格差、エネルギー問題、ジェンダー平等といった課題が山積しているなか、国際社会ではSDGsに代わる次の「ポストSDGs」の議論が早くも注目され、新たな枠組みが模索されている。
今回は「ポストSDGs」をキーワードに、持続可能な社会の実現に向けてどのような取り組みが注目されていくかを探っていく。誰一人取り残さない社会実現のために、私たちが注力すべきテーマを考察しよう。
SDGsの達成見込みは16%。達成への道のりは厳しい
SDGsは2015年9月、国連の「持続可能な開発サミット」で採択され、正式名称はSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)だ。17の目標と169のターゲットで構成されたSDGsは、「人間、地球及び繁栄のための行動計画」として、世界を変革するために、誰一人取り残さない包括的で公平な国際社会の目標(※1)として掲げられた。
SDGsは環境問題に焦点を当てたイメージが強いかもしれないが、目標1に「貧困をなくそう」が選ばれたように貧困の撲滅が重要なテーマとなっている。貧困を軸に、ジェンダー平等・経済成長・不平等の是正・食糧危機・気候変動対策といった課題の目標が設定され、人類が安定して地球で暮らすための指標が設けられている。
現時点での達成率の見込みは、いかほどなのだろうか。Sustainable Development Report 2024(※2)によると、2030年までに世界的に達成できる見込みのSDGsターゲットはわずか16%で、残りの84%は進捗が限定的、または進捗が後退している。特に、食料と土地システムに関連するSDGsの目標は従来の軌道から外れている。
SDGs全体の達成度を評価するために各国を比較したランキング(※3)では、TOP3に北欧3か国がランクインしている。1位はフィンランドで86.35ポイント、2位はスウェーデンで85.70ポイント、3位はデンマークで85.00ポイントだったが、上位の国々でもいくつかのSDGsの達成に大きな課題に直面しており、決して一筋縄ではいかない状況だ。
我ら日本は、18位で79.87ポイント。SDGsが発表された2015年が78.56ポイントだったことを考えると、9年で1.31ポイント改善しているが、解決しなければいけない問題が散在していることは言うまでもないだろう。
このような現状を踏まえ、「ポストSDGs」の議論が進められることは、持続可能な社会の実現に向け、次に何をすべきかを考えるための重要なステップである。現行の目標を見直し、今後の社会のあり方を見据えなければ、真の変革は成し遂げられないからだ。
気候変動と環境保護、未来へのカギは現在の対応強化
ポストSDGsでも注目されるのが、気候変動と環境保護の取り組みだ。2024年の夏、日本のみならず世界各国で異常気象が報告され、10月も日本では観測史上最も暑い10月となった(※4)。「いよいよ気候変動の影響が身近に迫っている」と感じた人も多いのではないだろうか。
SDGsの目標13は「気候変動に具体的な対策を」とされ、気候変動に向けた具体的かつ迅速なアクションが求められている。気候変動は、世界中で極端な気象現象や生態系の破壊を引き起こすだけでなく、これに伴う経済的損失も深刻だ。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のレポートでも、気候変動と環境保護への時間はほとんど残されていないことが示されており、二酸化炭素排出量の実質ゼロに向けた対策を遅らせることは、環境や私たちへの被害はさらに拡大する可能性が高い。
気候変動が引き起こす影響は、人間に対してだけでなく、自然界にも広がっている。気温の上昇や極端な気象現象が頻発することで、私たちの生活を支える食糧や土壌、水資源といった基盤がじわじわと脅かされ、生物多様性の喪失も進行している。気候変動への直接的なアプローチと並行して、自然環境への影響を緩和する技術や、変化に適応するための対策が行われるべきことも、忘れてはならない重要な視点である。
世界が協力しつつも状況が改善されない中で、気候変動への対応は一丁目一番地であり、ポストSDGsの重要なテーマとして位置づけられることは間違いない。
具体的には、温室効果ガスの削減に向けて、再生可能エネルギーの急速な導入、電気自動車(EV)の普及促進、炭素税や排出権取引制度といったカーボンプライシングの導入などが挙げられる。気候変動へのアプローチは、今のスピードでは不十分であることは明白だ。さらなる加速と結果が各国に厳しく求められるだろう。
経済的豊かさから「幸せ」へのシフト
ポストSDGsでも、「ウェルビーイング」が主要なキーワードになる。日本では「豊かな暮らし」や「充実した生活」といった文脈で使われることが多いが、ここでは個人のみならずコミュニティの幸福感や生活の質を意味する。身体的な健康に加え、精神的、社会的な幸福感を指し、すでに多くの国でウェルビーイングが国家政策目標に取り入れられるようになった。
例えば、オーストラリアは2023年、国家初となる幸福フレームワーク「Measuring What Matters」(※5)を設立した。このフレームワークは、GDPの枠組みにとらわれることなく、健康・安全・持続可能性・結束・繁栄といったテーマに基づいて国民の幸福度を測定することを目的としている。オーストラリア政府は、3年ごとにレポートを発表し、その結果を政策や予算編成に活用する考えだ。
これまでの経済成長重視の政策ではなく、国民の生活の質向上を重視する姿勢は、資本主義経済に代わる新しい経済理論として紹介した「ドーナツ経済(Doughnut Economics)」を思い出す人がいるかもしれない。
成長至上主義は、私たちを気候変動や資源枯渇のリスク、食料不足など、さまざまな問題に直面させてきた。だからこそ、経済的な豊かさだけを指標とするのではなく、人々の「幸福」と環境双方の持続可能性を同時に追求することが、本当の意味での「持続可能な社会」を実現するための新しい枠組みとして、注目されていくだろう。
テクノロジーの力も活用し、ポストSDGsが切り拓く未来
SDGsの達成は、思ったように進んでいないが、さらなる進展を加速させるためのヒントとして、現代が生んだテクノロジーの力をどう生かすかが重要な視点となる。
例えば、AIはすでにエネルギー使用の最適化や医療格差の是正、生物多様性の保護、教育機会の提供など、多岐にわたり貢献している。AIの導入にはメリットだけでなく、リスクも伴うことから世界的な規制が重要であるとはいえ、こうしたテクノロジーの活用はSDGsおよびポストSDGsの達成に欠かせない要素だ。
しかし、テクノロジーの恩恵を享受するには、同時にインターネットを介した情報アクセスの整備も求められる。世界人口のおよそ三分の一に当たる26億人は、まだインターネットに接続できない環境にある(※6)。デジタル技術を活用するためには、誰もがその恩恵を受けられるようインフラの整備も必要になるだろう。
ポストSDGsは、従来の目標に変わる新たな指標というよりも、SDGsによって浮き彫りになった国際社会や各国の課題を克服し、地球に暮らす人々が平等で幸福な生活を送るための道筋を示すものだ。どのような目標を掲げられるにせよ、世界はポストSDGsに向けて、より実行可能で影響力のある変革を求められている。
参考文献
※1 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ |外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402_2.pdf
※2 Sustainable Development Report 2024 Executive Summary|The SDGs and the UN Summit of the Future
https://dashboards.sdgindex.org/chapters/executive-summary
※3 Sustainable Development Report 2024|The SDG Transformation Center
https://sdgtransformationcenter.org/reports/sustainable-development-report-2024
※4 日本の10月平均気温偏差の経年変化(1898〜2024年)|気象庁
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/oct_jpn.html
※5 Measuring what matters|Austrarian Government The Treasury
https://treasury.gov.au/policy-topics/measuring-what-matters
※6 Population of global offline continues steady decline to 2.6 billion people in 2023|International Telecommunication Union (ITU)
https://www.itu.int/en/mediacentre/Pages/PR-2023-09-12-universal-and-meaningful-connectivity-by-2030.aspx
Ayaka Toba
編集者・ライター
新聞記者、雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして活動。北欧の持続可能性を学ぶため、デンマークのフォルケホイスコーレに留学し、タイでPermaculture Design Certificateを取得。サステナブルな生き方や気候変動に関するトピックスに強い関心がある。