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BUSINESS

「生成AI」の密かな劇的進化。ビジネスパーソンはどう向き合うべきか?

「生成AI」の密かな劇的進化。ビジネスパーソンはどう向き合うべきか?

「この子、すごい成長していますね!」

前回お伝えしたプロジェクトを共に進める同僚の女性社員が、Slackで歓声をあげた。彼女が最近飼い始めた子犬のことではない。リリースしてから半年ほど経つ「社内ツール」のことだ。

この社内ツールは、生成AIという存在を世に知らしめたChatGPTがベースになっている。社員が特定のプロンプトを入力すると、指定されたフォーマットで文書が生成されるもので、このクオリティが急激に上がっていると彼女は感嘆の声をあげたのだ。

確かに、私も同じような感覚を持っていた。言語モデルの選択で、昨年までと同様にGPT4をチョイスしても、クオリティが大きく上がっているという印象を受けていた。

一体、何が起きているのだろうか――。

密かに進む、生成AIの進化

2023年、世界の注目を一手に集めた生成AI。今年はビックテックを中心にさらに競争が加速しそうな勢いだ。

その中で中心となるのは、やはりOpenAIが開発する「ChatGPT」だろう。

昨年末に起きた、サム・アルトマンCEOの解任劇は一体何だったのか?そう思えるほど、OpenAIは相変わらず生成AIの分野でトップランナーとして走り続けている。最大のライバル・Googleが猛追しているものの、OpenAIには確かなリードがあるように感じる。

先月(2024年2月)には、動画生成AI「Sora」を発表。2023年も様々な動画生成AIが誕生したが、それらをはるかに超えるインパクトを与えたと言っても過言ではないだろう。それくらい圧倒的なクオリティを世界中に見せつけ、賛否を呼ぶほどだった。

しかし、このような派手なリリースにだけに目を奪われては、本質を見落としてしまいかねないと感じる。それが冒頭でお伝えした「GPT4」の進化だ。ChatGPTは(正確な呼び方ではないようだが)「文章生成AI」と言われるほど、自然な文章を生成できることが世界中から注目されるきっかけの1つとなった。

それも英語だけならともかく、日本語も今までのAIでは考えられないほどのレベルだ。筆者がフリーランスの編集・ライターのキャリアに一区切りつけたのは、ChatGPTが台頭してきて、いずれ限界が訪れると感じたからでもある。

そして最近では、この筆者が感じてきた限界は想像以上に早く訪れるのではないかと思うようになっている。

生成AIが進化し続ける2つの要因

サービスの根幹である「GPT4」の進化は、筆者とプロジェクトを二人三脚で進めるエンジニアも感じていた。

彼に率直に問うた。「なぜ、GPT4をはじめ生成AIは進化するのか?」と。

エンジニアの答えは、大きく2つの要因が考えられるというものだった。

まず挙げられるのは「スケール則」が効いているというものだ。スケール則とは、モデルが扱えるパラメーターや学習で使用できるデータ量が増えれば増えるほど、出力のクオリティが上がるというものだ。

例えば、ChatGPTはGPTのバージョンを3から3.5、4と上げるのに比例して、モデルのパラメーターを増やしている。その増やし方も数千億というレベルで、もはや人間が実態を捉えるのは不可能なほどだ。さらに、それに比例して学習に用いるデータ量も爆発的に増えている。

一見すると荒っぽい、力技のような印象を受けるかもしれない。しかし、この力技が効果を発揮するようになったからこそ、生成AIは信じられないほどの進化を遂げるようになったと捉えることもできるだろう。

力技が通じるから進化する!?

かつてAIのアルゴリズムは、人間がチューニングして精度を上げるというサイクルを回していた。ここに求められるのは、世界でも屈指の頭脳をもった人間の存在である。

しかし、人間が常に力を発揮できるとは限らない。「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがあるが、それは絶対的な法則ではないのだ。

一方で生成AIを進化させる方法が明確ならば、可能な限りその方法を突き詰めれば良い。パラメーターを増やし、学習データの量も増やし続けるには、膨大な計算リソースが必要で、それには途方もない費用がかかる。しかしビッグテックならそれが可能であり、OpenAIも出資元であるマイクロソフトの支援を受けながら、Googleの猛追をかわし続けるため、日々モデルを進化させ続けているのだろう。

この「スケール則」の話しに触れて筆者が思ったのは、かつての将棋ソフトの進化だ。将棋ソフトも、かつてはアマチュアでも有数の実力を持つソフトウェアエンジニアが開発を進めていた。彼らの職人芸のようなパラメーター調整が、将棋ソフトの実力をアマチュア高段者レベルまで引き上げた。

しかし、プロ棋士たちには到底かなわなかった。そこで颯爽と登場したのが「Bonanza」という将棋ソフトだった。開発者は将棋の素人。しかし、およそ6万局にも及ぶ(当時としては)膨大な棋譜を学習させ、評価関数のパラメーターを自動生成させるという従来の発想から大きく転換させた力技をもって、将棋ソフトの実力を劇的に進化させることに成功した。

そして、今では将棋ソフトの実力は名人をはるかに凌ぐまでになった。実は天才棋士も「神の一手」を放ち続けることは困難を極めるのである。

生成AIの「予測不能な進化」

生成AIを劇的に進化させるもう1つの要因が「能力創発」だ。これは、大規模言語モデルのパラメーター数を増やしていくと、突然タスクの正答率が高まるというものだ。

なぜ、このような能力創発が起こるのか?これは現在進行形で解明が進められているようだ。この先どうなるかは不明だが、少なくとも現状は大規模言語モデルが進化する要因は解明できていないことが多いようである。

「能力創発」の話しを聞いて感じたのは、「まるで子どもみたい」ということだ。ある日突然手を叩けるようになったり、話すようになったり、歩けるようになったりする。人間の子ども、特に幼少の頃は能力創発の連続である。同僚が「この子」と表現するのも的外れなことではないかもしれない。

もし能力創発のメカニズムが解明されたら、その時は人間の進化のメカニズムをより深く理解できるようになるのではないか。そんな淡い期待を抱きたくなる――。

生成AIを使い続け、触れ続ける

「スケール則」と「能力創発」をもって、人間の想像をはるかに超えるスピードで進化し続ける生成AI。一体、私たちビジネスパーソンはどのように向き合えば良いのだろうか。

さまざまな考え方があることを承知で、現時点の筆者の回答を述べるなら「使い続け、触れ続ける」に尽きる。

同僚のエンジニアが語った言葉が脳内にリフレクトする。

「スマートフォンのようなハードウェアなら、進化したことを明示しやすいです。しかし、ChatGPTのようなソフト(SaaS)は、ハードウェアのようにわかりやすく伝えることはできません。現時点であのレベルの文章を生成できるなら、これ以上クオリティが上がったことを訴求しても、インパクトは薄いでしょう。言語モデルのバージョンアップについては、従来のように大々的に発表することはもうないかもしれませんね」

これはある意味で恐ろしいことだ。意識的にキャッチアップしようとしなければ、密かな劇的進化に取り残され、場合よっては事業機会や自らのキャリアを失う可能性すらありうるだろう。

人間は不意打ちに弱い。そして、不意打ちする存在は、突如として現れるかもしれない。

ビジネスパーソンにとって、生成AIを「使い続け、触れ続ける」ことは避けては通れない道になりつつある。

しかし、何も恐れる必要はない。我が子の成長を見守るように「この子」の成長を肌で感じれば良いのだから――。

参考文献

https://openai.com/sora
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/008_05_00.pdf
https://www.pccluster.org/ja/event/pccc23/data/PCCC23_1208_02_yokota.pdf
生成AIで世界はこう変わる 今井翔太 (著) SB新書
https://news.yahoo.co.jp/feature/1712/

WRITING BY

狩野 晴樹

ライター

都内のスタートアップに勤めるビジネスパーソン。副業でたまに執筆活動を行う。趣味は野球&サッカー観戦。アラフォーになったものの、「不惑」は遠いと日々感じている。